人工知熊に乗りた-い

 

どーなつ

どーなつ

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「クラゲ」(『クラゲの海に浮かぶ舟』)、「カメ」(『かめくん』)、「ザリガニ」(『ザリガニマン』)ときて、今度は熊だ。でも、題名は『どーなつ』だけど。この物語の世界は、ポスト・ウォー。どんな戦争だったかは述べられてはいないが、しかし、その戦争による喪失感、哀しみが全体に漂っている。それこそぽっかり空いているドーナツの穴のように。

 

いきなりわかりにくいたとえ。ぼくたち地球人から見たら火星人は異星人だけど、火星人から見たらぼくたちは紛れもなく異星人だろう。こういうアプローチが作者はひじょうにうまい。

 

全部で10の話からの物語なのだが、百貨店の屋上、人工知能の熊で、「人工知熊」(「能」の字の下にテンを4つつけると、「熊」になる)、スタッフの間では「電気熊」と呼ばれているが。海馬や脳ミソを飼っている水族館の飼育係の話、アメフラシとコミュニケーションすることができ、落語を趣味で演ずる女性研究員…。

 

特に電気熊は、「脳ミソによる直接制御」なので、乗り手との一体感が必要だし、当然、馴れてくれば、カスタマイズされていくわけだし。電気熊たちは、夜中にこっそりと乗り手から得た情報を交換して進化しているらしい。外見はかわいいのに、結構なかなかの能力を秘めている。「パトレイバー」というよりも「エヴァンゲリオン」に近いのかな。でも、見た目はかわいい。どうやら主人公は、電気熊で異星で戦ったらしいのだが。

 

熊といえば全然関係ない話だけど、相変わらずテディベアは人気があるようで、先だってのイベントも大盛況、自称テディベア作家は、ごまんといるようだ。もうひとつ関係ない話すると、熊と相撲をとって足払いで勝った秋田県の山菜取りのオジサン談によると、熊は二本足で立っているときは、意外と弱いそうだ。

 

ついでにおまけで関係ない話をすると、自称熊チャン体型の某前長野県知事も外見とは違ってかなりしなやかというよりはしたたかで、外見にだまされちゃあいけない。

 

はじめて見るのに、いつか見た光景。ノスタルジックなのに、近未来。そんな作者の紡ぎ出す精巧なジオラマのような世界に、いつの間にやら引きずりこまれていく。たぶん、それは、センチメンタリズムなのだろうが、どうもその一言だけではすまされない隠し味が入っている。

 

読んでから、しばらくボケーっとしていた。願わくばぼくも、人工知熊の中に入って操縦してみたい。コクピットからの眺めはどんなものだろう。

 

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