作家大爆発

 

 

日本文学盛衰史高橋源一郎著を読む。

『一億三千万人のための小説教室』のレビューの続編なんで、興味のある人は、面倒でもそこからお読みいただけると幸いです。

 

と、いうわけで評判の高い本作を手にすることにした。あれよあれよという間に、読んでしまった。ほんとはしなきゃいけないことが山のようにあるんだけど。

 

本作は、日本近代文学の揺籃期を描いた小説。だけど、そこはポップ文学の第一人者である作者だけに、いままで国語の授業や日本文学の講義で習ったものとはひと味もふた味も違っている。たとえば、いま、ぼくたちがこうして書いている文章は言文一致体というが、その創始者といわれる二葉亭四迷や山田美妙の苦悩をかなり、リアルに再現している。

 

日本語でロックは表現できるか。それで大激論となった日本のロックの黎明期と似てなくもない。

 

新しい日本文学を樹立しようと意気込む作家たち。ドストエフスキーなど当時の世界の最先端文学を翻訳しながら、どのように自作に採り入れようかと躍起になる作家もいれば、オリジナリティの創作に励む作家もいる。

 

国木田独歩田山花袋らに代表される自然主義文学はオールドファッションだと当時勃興しつつある危険とみなされた社会主義思想に強い共感を抱いていた石川啄木。石川が校正係をしていた朝日新聞社に出入りしていた夏目漱石との交流。森鴎外島崎藤村などキラ星のごとく輝く明治時代の文豪たちが本作の中では、いきいきと動き回っている。

 

樋口一葉が登場してくるシーンは、王道をいく青春小説仕立てになっていて、-村上春樹パスティーシュの如し-ふだんはひねくれた文学ファンならずとも、そのまぶしい青春ぶりにテレることなく賛辞してしまうはず。

 

伝言ボックスを愛用して、渋谷が大好き、アルバイトでブルセラショップの店長をしているな石川啄木やアダルトビデオ監督に挑戦する田山花袋など、作者は、ケータイ、Web、ルーズソックスの女子高校生など現代のトレンドを巧みに織りまぜながら、ポップにユーモラスに展開している。

 

ある詩人のサイトの掲示板の書き込みあたりが実にうまくて笑える。違和感があるかというとなぜかそれがまったくといっていいくらいない。なぜならば古色蒼然たる世界ではなくアップ・トゥ・デートな世界をとらえようとしているからだ。

 

坪内祐三あたりがしきりに明治時代の文学をプッシュしているのは、この時代の多士済々な作家たちや作品、いずれもが爆発的なエネルギーにあふれているからなのだろう。さしずめ明治時代は、かつていろんな生物がいちどきに大量発生したカンブリア期のようなものだ。

 

メタフィクション、メタメタフィクションと、もうメタメタ…。

 

日本文学史としても読めるし、ある意味、私小説的部分(作者のご母堂のことやラストに出て来る実子に対しての思いは、まるっきし無頼派作家のよう)もあるしと、かなり味わい深い、読み応えのある小説である。

 

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