ファンタジーとミステリーとSFのトリニティ(三位一体)

 

 
『アリス殺し』小林泰三著を読む。

 

リケジョ(理系の大学生)である栗栖川亜理は、このところ『不思議の国のアリス』の夢ばかり見る。ハンプティ・ダンプティが「塀から転落する」夢を見る。大学の研究室に行くと研究員の王子玉男が転落死していた。


彼女が不思議の国での登場人物が次々と死ぬ夢を見ると、あたかもそれに呼応するかのように彼女の周囲で死者が続けて出る。
なぜか彼女に殺人容疑がかけられる。


栗栖川亜理の同僚の井森はこの不思議な殺人事件を「アーヴァタール現象と呼んでいる」。アーヴァタール、アヴァターのこと。

 

「『不思議の国』という仮想世界に我々のアーヴァタールが存在しているとしたら」

 

 

栗栖川亜理のアヴァターはアリス、王子玉男はハンプティ・ダンプティ、井森(イモリ)は蜥蜴のビル。登場人物が『不思議の国』のキャラクターとリンクしている。

 

捜査に当たるのは、おなじみ谷丸警部。鋭い一言。

 

「幻想世界にいる殺人鬼が現実世界に影響を与えているとしたら、その殺人鬼を幻想世界のルールで処罰することを検討すべきだとは考えないかね」

 

 

 

通常は幻想世界に住むアヴァターは、絵本を閉じたり、映像をオフにしたり、ゲームを終わりにすれば死ぬか停止するはず。アヴァターがリアルで人物がヴァーチャル。同様に幻想世界がリアルで現実世界がヴァーチャル。どうやらさかさまが真実らしい。

 

「無数の導線や管が取り付けられていた」「赤の王様(レッドキング)」。

 

 アリスにメアリーアンは答える。

「あれは一種の量子コンピュータなのよ」

 

メアリーアンがアヴァターの広山衝子准教授。彼女も殺される。ところが、

「この世界で広山衝子が死んだとしても、不思議の国の本体であるメアリーアンが生きている限り、何度でもリセットされて、広山衝子は復活する。―略―それが赤の王様(レッドキング)の夢のルールなのよ」


不思議の国のアリス』を読んだときに抱いた、不思議感、ナンセンスさ、残酷さ、黒いシュールな笑い。その世界観をまんまミステリーとSFにした。ファンタジーとミステリーとSFのトリニティ(三位一体)。

 

後半、トランプ兵士たちがメアリーアンの首をちょん切るシーンが出て来る、本来なら残酷でグロいシーンなんだけど、さほど感じないのはなぜ。

 

不思議の国のアリス』をそばに置いて読むといいかも。改めてキャラクターたちのヘンテコぶりに感心する。謎の合言葉「スナークはブージャムだった」。これが頭から離れない。

 

そう言えば大学時代に水煙草を吸うイモムシをプラ粘土でつくったことがある。


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