罪とか罰とか―貧困をすべてのせいにはしたくはないが

 

終身刑の女 (小学館文庫 ク 8-1)

終身刑の女 (小学館文庫 ク 8-1)

 

 

終身刑の女』レイチェル・クシュナー著 池田 真紀子訳を読む。

 

ロミ―・ホールは、ストリップ・クラブ「マーズ・ルーム」のダンサー。シングル・マザーでもある。なじみ客であるカート・ケネディにストーカー行為をされるようになり、日々それがエスカレートする。住居を変えても執拗に転居先を知る。息子を守るためについ過剰防衛してしまい、結果、カートは亡くなる。

 

経済的に恵まれているならば優秀な弁護士にも依頼できるが、暮しはカツカツ。とても有能とは思えない国選弁護人がついたが殺人罪終身刑となる。子どもは実母が世話している。実母はドイツ系アメリカ人。娘とは折り合いが悪かったが、孫ともなれば別のようだ。ロミーはドイツ出身の女優にちなんで名づけられた。数年後、頼みの母親が亡くなったことを知る。息子の行方は。というのがタテ軸のストーリー。

 

ヨコ軸は、女性刑務所や囚人たち、刑務所の教員や刑務官などの話。同性愛者の黒人コナン、メキシコ人の元ジャンキーのサミー、白人のロミーなどキャラクターがしっかりと描かれている。


いわゆる塀の中の暮しも丹念に書かれている。限られた物資を創意工夫してエンジョイする術も。性転換した男性囚人が収監されることを知ると一同反対運動に出る。

 

ロミーは刑務所の教員ゴードンから勉強の手ほどきを受ける。心優しい文学青年ゴードンは彼女に本を与える。貧しい家に生まれた彼女は学ぶ喜びを知る。しかし、息子のことが気になる。弁護士に頼んでも連絡はない。ゴードンにも調べてくれるよう依頼する。まもなくゴードンは転勤となる。

 

ここから出たい。でも、出られない。終身刑ならば特赦も期待できるが、確約されたわけではない。息子との絆が途切れる前に何とかしないと。ある日、刑務所内で暴動が起きる。その隙を狙って脱獄を図る。木工作業を担当していたとき、埋めておいた木ダボで。電流フェンスも幸いなことにクリアできた。


息子に会えるのか、会えないのか。奪還できるのか、できないのか。話はその前で唐突に終わる。一面立ち込める霧のラスト・シーン。

 

読んでいて『ブルースだってただの唄 黒人女性の仕事と生活』藤本和子著のようなノンフィクションかと思えるほど囚人たちの生き方や罪を犯す経緯がリアルに書かれている。

 

 

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ロミーという名前にちなんだと思われる悲劇の女優

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