ユートピアとディストピアは紙一重

 

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

『ユートロニカのこちら側 』小川哲著を読む。

 

過度なストレスは万病の素だが、ほど良いストレスは長生きの素だそうだ。

「週休3日制」が騒がれているが、もし労働しなくても文化的な生活が保証されるとしたら、どうする。条件は、「視覚・聴覚・位置情報など」一切の個人情報を提供すること。

 

この本に出て来る理想のリゾート都市「アガスティアリゾート」がそう。
「IT企業マイン社とサンフランシスコ市が共同建設」した。

 

申し込んで運よく選ばれれば、人生はあがりとなる。
日々好きなスポーツや趣味に打ち込む極上のリア充が送れる。

犯罪や病気とも無縁のユートピア
なぜなら危険思想や犯罪、病気などでデータ上で問題があった、ありそうな人や家族ははじかれるからだ。
さらに犯罪予測システムBAPが「アガスティアリゾート」での犯罪発生を未然に防いでいる。

 

アガスティアリゾート」を核にした6篇の連作短篇集。3篇だけ手短に紹介。

 

第1章 リップ・ヴァン・ウィンクル
アガスティアリゾート」への入居が決まったジョンとジェシカ夫婦。ジェシカは夢のような日々に浸っているが、労働にやりがい、生きがいを感じていたジョンは入居後、次第に変調を来たしていく。子どもも考えていたが、セックスも当然監視下にあっては、うまくいかない。

 

第2章 バック・イン・ザ・デイズ
リードの亡くなった両親はかつて「アガスティアリゾートのテスター」をしていた。その関連で彼はマイン社が開発していた「過去体験サービス「ユアーズ」」を試す。「疑似タイムマシ-ン」で体験した過去が描かれている。やはり、絵空事

 

第4章 理屈湖の畔で
犯罪予測システムBAPの生みの親、クリストファー・ドーフマン。アラン・チューリングの再来といっても天才数学者兼哲学者。彼はモニター越しにラリー・ジェンキンスを見ている。BAPはジェンキンスが近々「無差別の暴力行為に出る」と予測している。
監視していたにもかかわらずジェンキンスは女性の首をフォークで刺す。攻めるメディア。苛立つドーフマン。挙句の果てに彼はBAPにリストアップされてしまった。


ユートピアディストピア紙一重。改めてそう思う。
社会学者や哲学者が書く論考をわかりやすくSFテイストの読物に仕立て上げた。
その捌き方が鮮やか。デビュー作とは思えないほどのできばえ。
悪く言うと初々しさは皆無。

 

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