人工知性(マ・フ)はヒトへの夢を見るか

 

七十四秒の旋律と孤独 (創元日本SF叢書)
 

 


『七十四秒の旋律と孤独』久永実木彦著を読む。


タイトルである『七十四秒の旋律と孤独』の「七十四秒」とは人工知性(マ・フ)が「空間めくり」(宇宙空間ワープ)までにかかる時間。「七十四秒」は後半のクライマックスシーンでキーとなる。

 

「人型の器体(ボディ)」を有した彼らは、「人工天体である母船(マザーシップ)」で生まれ育っている。その数「十万」。リアルなヒト体験はしていないが、ヒトから命じられた船を守ることを着実に履行している。

 

『七十四秒の旋律と孤独』ではその模様が書かれている。

『マ・フ クロニクル』は6編の連作。朱鷺型の人工知性(マ・フ)とその創造主であるヒトとの出会い、交流、別れまでを綴った作品。

 

ヒトが記した「聖典(ドキュメント)」は、「宇宙の地理情報システム」から「空間めくり」など「すべての行動の指針」となっていた。バイブル兼マニュアル。

 

一万年後、惑星Hに棲みついた人工知性(マ・フ)たち。「聖典(ドキュメント)」通りに
惑星の環境などを観察している。

 

マ・フの一人ナサニエルは誤ってフィリップに大けがを負わせる(「機能停止」状態)。彼が持っていた「金属の枝」が火を噴いた。マ・フたちは銃というものを知らなかった。

 

彼らはヒトを目撃する。そして家まで運ぶ。ナサニエルの部屋で目を覚ましたヒト。
名前はオク=トウ。マ・フとヒトの交流が始まる。

互いに理解できることもあれば、できないこともある。
狩りをして獲物を食べるヒト。ヒトをリスペクトするようつくられているのだが、
実際、生身のヒトを見ると違和感が生じた。

 

オク=トウにも仲間がいた。マ・フたちを見下す者もいる。
電気がない暮らしは耐えられないとマ・フたちの居住スペースを明け渡すよう要求する。やがて不幸な争いが始まる。先住民族を銃などで武力追放した白人と同じ手口。

 

とっさのところで「空間めくり」に成功、マ・フたちは新天地へ向かう。

 

最後の『マ・フ クロニクル 巡礼の終わりに』は、一転和物伝奇SFの世界。
二万年後、マ・フにもようやく天寿を全うするときがきたのか。

深い山林の中で静かに目を閉じるナサニエル

古代人が描いた絵文字の壁画や創世に関する神話や伝説をテーマにした綴れ織りをなんとなくイメージした。

 

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