ポスト・シンギュラリティ―人間とAIは

 

タイタン

タイタン

 

 

『タイタン』野﨑まど著を読む。

 

「2205年」人々は働かなくてもよくなった。趣味に興じる毎日、たぶん。
そのユートピアをもたらしたのがAIタイタン。
ところがタイタンのうちコイオスというAIの能力が低下する。

 

「心理学を趣味とする」内匠成果がにわか臨床心理士となってコイオスのカウンセリングを行う。どうやらコイオスは人間化したらしい。人格を得た。それが不調の一因かと。


人間化するAI。それは進化なのか。新化なのか。自我の芽生え、「仕事とは何か」など
AIコイオスは彼女とのやりとりの中で学習していく。スポンジが水を吸うように。

 

「身長が約千メートル」のコイオスは旅に出る。現在の弟子屈(第二知能拠点)から海岸線をたどって徒歩で。最終目的地は西海岸、シリコン・ヴァレー(第十二知能拠点)。
そこに「タイタンのカウンセラー フェーベ」がいる。フェーベもAI。

 

ここからテンポが良くなる。同行者の内匠成果はコイオスの体内にいる。巨大ロボットものテイスト。道中、彼女は料理などを楽しみながらコイオスとさらに対話を深めていく。「仕事」「働く」「生き甲斐」…。AIゆえ料理も語学もお手のもの。コイオスは硬化光粒(ピクシー)でつくったエアリアル(アバター)で少年になって外界を体感する。エアリアルも徐々に完成度が高くなる。

 

数少ない就労者、小うるさい仕事人間・ナレイン、エンジニアの雷(レイ)、AIの研究者ベックマン博士らの登場人物も魅力的。


「外観は事実以上の認識を生んでしまう。人間そっくりのタイタンが存在してしまったら人間性を感じない方が難しいのだ。それはまさしくコイオスのように。タイタンを思い通りに使いたければ人権など与えない方がいいに決まっている」
「けれど、それがもうすぐ変わってしまうのかもしれない」


人間とAIというとシンギュラリティが問題になっているが、この作品はそこを通過した後の一種の理想郷。必要なものはタイタンから支給してもらう。AIを開発、管理しているのは人間だが、何から何までAIに依存している社会はいつの間にかAIに支配されているのではないだろうか。


見た目がほぼ人間化したAIと人間は協調し合えるのだろうか。
「仕事から解放される」ことは、人間にとって幸せなことなのだろうか。

ぼくもコイオスのように内匠成果に質問攻めにしてみたい。

 

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