開高健風のキャッチコピーで。
『塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性』藤本和子著を読んだ。
聞き書き、聞き取りというとなんだか岸政彦あたりが今は有名だが。
どっこい、遥か1960年代にアメリカの黒人女性に試みたのが、著者だ。
作者が翻訳したブローティガンの数々の著作は、
大学時代、その世界と文体に強い影響を受けた。
でも元々は演劇畑の人で。うーん、懐の深い人だ。
印象に残った箇所をランダムに抜粋、感想をば。
『塩食い共同体』
「作家のトニ・ケイド・バンパーラ」への聞き書き。
白人女性の母娘関係と黒人女性の母娘関係の違いが印象深かった。
「白人の女性の場合には、母親を嫌ったり、憎んだり、あるいは信用しないというケースに出合うことが多い。けれども同時に彼女たちは彼女らの母親のようになりなしと教えられている。いや母親をしのげとまで。ひどいジレンマに陥ることになるわけね」
娘の生き方の手本であり、反面教師であると。なんだか日本女性の母娘関係にも当てはまりそうな。レールを敷いてあげるか。あるいは自分で好きなレールを敷きなさいと娘を抑圧する。
「黒人女性の多くは家庭の中に戦争が起こることを許さない。離れて行くか、服従するか、二つに一つ」
「アフリカ大陸文化の特質は女がそれを充電している文化だということ。「母」という概念はアフリカが西欧の知識人に与えたものだろうと、わたしは確信しているの」
「ヨーロッパ人は女性に対して全く敬意を持っていなかったから」
知らなかった。白人女性の母娘関係って負の連鎖なのだろうか。
『ヴァージア』
「大学の図書館で働いてるヴァージア」への聞き書き。
彼女は「奨学金でマサチューセッツ州の大学に研修に行った」。
そこで東部の白人の「豊かな暮らし」と黒人に対する無視など冷たい態度を体験した。
南部の白人が黒人に対する「差別や偏見の醜悪さ」は、確かにひどい。
ひどいが南部には「黒人と白人の日常的な交わりがある」と。東部にはそれがなかったと。「東部の都会ではゲットーが成立して」、隔離されていると。
知らなかった。逆だと思っていた。南北戦争で北軍が勝利。奴隷解放により
黒人は自由を獲得したと単純に理解していた。
また
「公民権運動の黒人と白人の共働の時代が終わって、ブラックパワー運動へと変化したことによって、彼女の職場に会った日常の正常な交流は終息してしまった」と。
「それまでは一緒に学び、遊び、眠っていたのに」
南部での黒人と白人は共依存の関係だったようだ。
「公民権法」成立により法律上は平等とされているのに、黒人差別は続いた。それを解消するためにより過激なブラックパワー運動がマルコムXのもと展開された。しかし差別は悪性腫瘍のように増殖してBLM(Black Lives Matter=黒人の命は大切)運動へとつながる。
見事なまでに私を消している。会話が聞こえてきそうな臨場感のある再現力の高い文体。インタビューとインタビュイーという関係ではなく同じ有色人の女性・母・妻同士として対話している。
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