『ザリガニマン』北野勇作著、読了。
『ザリガニマン』そのイメージは、とっさに、『ウルトラセブン』のバルタン星人か、『仮面ライダー』に出てくる改造人間の敵役キャラみたいと思った。
いきなり出てくるザリガニ釣りの話。雨上がり、側溝の中に、赤い姿をチラホラ見せたアメリカザリガニ。いちばんのエサは、彼らの体の一部分、肉だった。
同じことが、本文にも出てくるが。ハサミに挟まれた時の痛さを今でも覚えている。
主人公トーノヒトシは勤務先のムゲンテックで、「人間とザリガニのインターフェイス」、「人間の脳でザリガニを無理なく操作する」ことを、任務としている。
その実験の最中、ムゲンテックの工場が爆弾テロにより破壊される。トーノヒトシは、ザリガニマンとなり「正義の味方」になっていく。
と、ストーリーを紹介すると、完全懲悪ものやバイオレンス、アクションっぽい風に思われるかもしれないが、意外と、ふつうで(ふつうじゃないか)、静かに展開していく。
仕事はハイテクなのに、銭湯、場末の映画館、電気ポットで沸かした湯でインスタントコーヒーを飲むようなローテクな会社の独身寮の一人暮らし。それは、ちっちゃな段ボールの中にむりやり潜り込んで悦に入っているネコのように閉じられた心地良い世界。
松本零士の四畳半的空間でもあり、押井守の屋台でラーメンすする空間と同じニオイがする(ここ、わかってもらえる人だけ、わかってもらえればよろしい)。
SFなんだけど、よくよく考えてみると読後感は、ボリス・ヴィアンの『赤い草』あたりの幻想的というのか、不可思議な世界にも似ている。ありそでなさそな、なさそでありそな話。ちと、頭がシビレてしまった。
主人公がザリガニモードで感じるあたりの描写やザリガニとシンクロしてザリガニマンに変身するシーンは、好きかもしんない。実は、ザリガニマンには想像だにしないもの凄い能力があったのだ(読んでのお楽しみ)。
映画化するなら、アニメ化するなら監督は、誰だろう。などと勝手に考えつつ、ザリガニマンになった時のことを想う。