『アメリカの鱒釣り』は、好きかい?―リチャード・ブローティガンの評伝というよりも良くできたライナーノーツ

 

アメリカの鱒釣り (新潮文庫)

アメリカの鱒釣り (新潮文庫)

 

 

リチャード・ブローティガン藤本和子著を読む。

 

この本、表紙が『アメリカの鱒釣り』と同じ。ファンだったら、ジャケ買いならぬカバー買いだよね。にしても、『アメリカの鱒釣り』が与えた文体のショックってかなりのもんだった。よく『ライ麦畑でつかまえて』の訳者野崎孝のモノローグの文体が当時の若者に多大な影響を及ぼしたっていわれるけど、そのくらい、それ以上だったかもしれない。

 

訳者でもあり、本書の作者である藤本和子抜きにしてはブローティガンは語れないんだけど、その散文のようなフレーズは、しみた。すっごく、はまった。


ジェイムス・テーラーの歌と同じぐらい。先日、BSでハゲたおっさんがギターを弾きながら歌っていた。ジェイムス・テーラーにそっくりだなあ、この歌い方はと思ったら、本人でした。

 

ぺしゃんこな閉じられた世界、日本びいきの作者なら、「BONSAI WORLD」とでもいえば喜んでくれるかもしれないが。そんなミーイズムがウケたんだよね、かつては。
でも、いまだって、電車の中で二人のシェルターに逃げこんでチューしてるバカップルがそこここにいるんだから、ウケないことはな-い。

 

晶文社から出ていたプローティガンの本は、装丁も洒落ていた。ていうか、彼の世界を一枚絵で集約していた。大したもんです、平野甲賀は。

 

よしもとばななも好きだという『愛のゆくえ』。原題が『妊娠中絶-歴史的ロマンス一九六六年』。これじゃあ、売れないよな。かつて新潮文庫から出ていて、村上春樹のさきがけ、ボリス・ヴィアンの匂いもした。

 

作者はブローティガンの親族や生前、縁のあった人たちに会いに行って話を聞く。もしデジカムで撮ってたら、いいドキュメンタリーになるよなあ。

 

作者はビートニクだった。そうだろな。ビートニクを代表する作家ジャック・ケルアックを何冊か読んだけど、訳がひどいのか、もともとの文体がだらだらしてるのか、ついていけなかった。

 

彼の文体は散文-まあもともとは詩作の人でもあるわけだし-と書いたんだけど、短歌や俳句に通じるものがある。ミニマルとでもいえばいいのか。

 

彼はマッチョ気取り、ほんとはナイーブさん。そして大酒飲みだった。アメリカ西海岸、東京、彼には居場所がどこにもなかった。あこがれの日本でも、異邦人のままだってボヤいたそうだが、そりゃそうだろ。そんなこといってるわりには、ホテル代、飲み代を踏み倒したり、日本人の女性をラチして(ウソ)奥さんにしたりと。

 

彼が自殺したと聞いても、ファンならばそんなに驚きはしなかったんじゃないかな。この本にも酔っ払ってロシアンルーレットをする癖があったと書かれているし。たまたまビンゴ!であの世行きになったというのは、あり!と考える。そう、彼の小説の中の主人公も人生斜に構えて、タチの悪いジョークを飛ばすイメージがあるから。

 

この本を的確にいうなら、良くできたライナーノーツだ。

 

高田渡の『フィッシング・オン・サンデー』(プロデュースbyヴァン・ダイク・パークス)でもかけながら、もういっぺん、『アメリカの鱒つり』を読んでみよう。

 

付記

ケルアックがわからないと書いたが、先日J-WAVEの『RADIO SWITCH』で柴田元幸が訳したケルアックの『吠える』の一部を自ら朗読されたら、ぴんときた。

 

人気blogランキング