先住民族のプライド

 

イシ ー北米最後の野生インディアンー

イシ ー北米最後の野生インディアンー

 

 なんだかザワザワしているんで、昔書いたものの再録で。

 
『イシ―北米最後の野生インディアン』シオドーラ・クローバー著 行方 昭夫訳を読む。
 
1911年、カリフォルニアに突然あらわれた野生のインディアン、イシと文化人類学者アルフレッド・クーパーの交流を綴ったノンフィクション。
ヤヒ族のイシは、博物館が住まいとなる。人類が長い時間をかけて文明化していったのに、イシは、きわめて短期間で石器時代からワープしたかのごとく、
現代文明の洗礼を受ける。
 
しかし、彼はヤヒ族の伝承された文化と誇りを失うことはなかった。アルフレッド・クーパーたちは、イシを研究対象ではなく友人として扱い、互いにコミュニケートしていく。
 
子どものとき、テレビで西部劇が放映され、人気があった。『駅馬車』に代表されるように、インディアンは悪玉、白人は善玉というステロタイプな図式は、当時の、特に子どもに刷り込まれたと思う。
 
史実は、逆。先住民族である彼らを追いやったのは、ヨーロッパから渡ってきた白人。
本書に載せられているインディアンの地図からアメリカ合衆国が成立する、ずうっと前、彼らの住んでいた土地を想像してみた。
 
著者夫婦の子どもが、やがて高名なファンタジー&SF作家となる。アーシュラ・K. ル=グウィンである。『ゲド戦記』などの著作に紛れも無くその精神が生きていると訳者は述べている。
 
ところで娘のル=グウィン女史は、無数のインディアンの殺害、土地の収穫についてホロコーストという語を用いている。ナチによるユダヤ人の大量虐殺について用いる語を、この場合にも敢えて使用しているのである。
 
以前読んだル=グウィンの『言の葉の樹』にも、先進文明の惑星とそうでない文明の惑星の対比を通して、要するにグローバリゼーションを批判していると感じたのだが、それは親譲りなんだな。
 
異文化との共存。お互いに畏敬の念を持ちながら。そんな理想的な話が現実にあった。あったかい気持ちで読み進んだだけに、イシの最期は、なおさら哀しい。