すっからかん

 

本物の読書家

本物の読書家

  • 作者:乗代 雄介
  • 発売日: 2017/11/24
  • メディア: 単行本
 

 本当にトイレットペーパーやティッシュ、ペーパータオルまで

棚はすっからかんだった。
オイルショック体験組がこの世にバイバイしたら
こんなことはなくなるのだろうか。
葬儀では溜め込んだトイレットペーパーやティッシュを花の代わりに
棺桶に敷き詰めてやろう。
 
『本物の読書家』乗代雄介著を読む。
 
あらすじや感想を書いても作品の評価にはならない系譜の作家。
たとえば保坂和志、たとえば磯崎憲一郎

『本物の読書家』
あらすじは、大叔父を高萩にある老人ホームまで送る若い男性。
そこに居合わせた高級ブランドものでまとめた怪しげな男との珍道中。
常磐線だからロードストーリじゃなくてレイルウエイストーリー。
大叔父は若い頃、川端康成とのつきあいがあった。
そこに驚きの裏話が。マジか。
合間合間に文学に関する話が引用されている。
引用の選び方、こなし方がうまい。
どう言えばぴんとくる。
リミックスだ。ヒップホップ系の人が得意の。
原曲から使いたいとこだけを使ったり、
他の曲とつなげたり。
この作品もいきなりストーリーはフェイドアウトする。
まあ実際、因果関係になるようなことは少なくて
偶然が重なってそう見えるってことなのか。

『未熟な同感者』
亡くなった「親しい叔母」と大学の小人数のゼミ。
「『ボヴァリー夫人』がテキスト」。
「親しい叔母」と大学のゼミをつなぐのが、サリンジャー
夏目漱石カフカ…。
さっきリミックスと書いたが、
ゴダールの映画のようだとも言える。
手持ちカメラで鮮やかにシーンを映し出す。
一方で、セリフや音楽は引用だらけ。
そうか。原稿用紙にカラフルなポストイットが膨大に貼られている。
地味そうな主人公の女性とモデルのような女性。
女性の語りがなんかエロさを感じさせるところもある。
ゼミの准教授は、噂通りほんとうにヘンタイなのだろうか。
なかなかの曲者。