恐怖は愉しい

 

銀の仮面 (創元推理文庫)

銀の仮面 (創元推理文庫)

 

 『銀の仮面』ヒュー・ウォルポール著 倉阪鬼一郎編訳を読む。

ヒュー・ウォルポールは『恐怖の愉しみ 上』平井呈一編訳で『ラント夫人』を読んだことがある。

この本も何やらゴースト・ストーリー集かと思ったら違った。
良い意味で期待を裏切られた。

『銀の仮面』に今頃魅了されたんかいと思われるかもしれないが。
もちろんゴースト・ストーリーもある。
よく「人が一番怖い」と言われるが、「イヤミス」系、まさにそんな短篇が半分ほど入っている。
 
ほら、朝の電車ではずみで隣の人の靴を踏んでしまった。
あやまったが、怒りはおさまらないようで、会社のある駅までついてくる。
遠回りしてまくとか。電車の時間を変えるとか。
それでもなぜかついてくる。

以下短い感想を。
 
『銀の仮面』
人の小さな親切をきっかけにどんどん入り込んでくる人。
マインドコントロールでもされているような状態。怖い!
 
『敵』
こちらは友人と思ってないのに向こうから親しげに接してくる男。
あるあると読み進むと意外な結末。うまい!
 
『トーランド家の長老』
善意を押し売りする中年婦人。空気などまったく読めないので
タブーとされていることを次々とぶち破る。
でも、善意だと思っている。
主である老婆。なんとかそれを阻止しようとするが…。恐るべき、おばさん!
 
『みずうみ』
ターナーの風景画を思わせる美しい山の湖。夜、生き物のように「忍び寄る水」。
本格的なゴースト・ストーリー。
 
『虎』
ニューヨークに仕事で訪れた英国青年。
ってイングリッシュマン・イン・ニューヨークか。
虎に襲われる寸前で目が覚める。悪夢が正夢になったのか。
虎は見知らぬ国で過ごす不安の象徴化なのか。
ニューヨークの猛暑せいなのか。
獣のにおいがする。青年の病的な妄想なのか。