A面で恋をして

 

短篇集ダブル サイドA (単行本)

短篇集ダブル サイドA (単行本)

 

 年末モードに入る。

東京の電車も道路も空きだして残留者にはいい季節。
帰省先が喪失したし、長い休みも取れない。
呑む・打つ・買うではなくて
飲む・喰う・読むってところ。

『短篇集ダブル サイドA』パク・ミンギュ著 斎藤真理子著を読む。
『短篇集ダブル サイドB』も同時発売。

懐かしの2枚組LPレコードを模した短篇集。
洒落た装丁、誰だと思ったら、お、サルブルネイの松本弦人だった。
サイドAは9つの短編。
 
感想は『A面で恋をして』の歌詞を真似て
 
「A面で恋をして 光るコトバのマシンガンで
ぼくの胸 打ち抜かれたよ NO…」
 
ポップ、洒脱なところが魅力。
この本では通常の小説とSFテイストの小説、2方向の
短篇がラインアップされている。
どちらもヤになっちゃうくらいうまい。
3篇だけ感想を。
 
『近所』
 
30年を隔てて過去の自分と現在の自分が対峙する。
死を覚悟した瞬間、走馬灯のように人生がフラッシュバックする。
そんな常套句をナイーブに描いた。
人生のほろ苦さがじわじわくる。
 
『黄色い河に一そうの舟』
 
妻が痴呆症となった介護している夫。
身辺整理して子どもに遺せるものは遺して
夫婦最後の旅に出る。
現役時代は猛烈サラリーマンで家のことは妻任せ。
その償いの意味もある。
是枝監督が映画にしそうな話。

『深』
 
深海ヒルの体液からつくられた「代替体液「R-71」」。
これにより人類は「スキューバダイビングだけで、1キロ近い潜水に成功」する。
しかし、「R-71」には副作用があった。
人類魚化計画は事故でも進行する。
深海の世界は文字通りディープブルー。
潜ることで人は新たな領域に入るのか。
あるいは先祖返りするのか。
宇宙飛行を体験すると神の存在を体験するというが、深海では。

LPレコードで好きな曲を聴くときは、
目を凝らして盤面の溝をチェック。検討をつけて針を落とした。
その点、本は、好きな作品はすぐに読めるので楽っちゃー楽。