ヴァーチャル・リアリティかバーチャン・リアリティか

 

ファミリーランド

ファミリーランド

 

 

国立医療センター前の駒澤通りと自由通りの交差点から
真っ白な富士山が見えた。
公園の木々も色づいて、冬は、そこまで来ている。

さて、『ファミリーランド』澤村伊智著を読む。
 
「第22回日本ホラー大賞」を受賞した『ぼぎわんが、来る』の
出来の良さに魅了されて他の作品も何作か読んでみた。
ホラー小説としてうまいとは思う。
けれども、レビューにまとまらなかった。

この作品はSFなのか。初出が『SFマガジン』だから。
もっともホラーとSFは双子のようなものだし。
舞台は近未来の日本。
たぶん、こうなるんだろうなという世界を
5つの短編でいち早く繰り広げている。
 
『コンピューターお義母(かあ)さん』
 
本物の「義母は関西の老人ホーム」にいるのだが、
タブレット」にひっきりなしにメッセージが届く。
VR姑の小言、もしくは嫁いびり。
離れているのにたまるストレス。
孫は小言ではなく愛に満ちた祖母(ばあちゃん)のメッセージと受け止めていた。
思いついてアポなしで老人ホームを訪ねると…。
これ以上はネタバレするんでここまで。
 
『マリッジ・サバイバー』
 
いま、婚活サイトがあってにぎわっているらしいが、その進化が見える。
やみくもに好きになるのではなくて
事前に収入や将来のプランから趣味や人生観など個人情報が得られる。
だから間違いのない結婚生活が送れるというのだが。
24時間オンラインで妻から監視されている夫は、日増しにそれが耐えられなくなる。
監視を逃れる手を知り、試みる。
思った以上の解放感。その反動で犯した罪。
おっと、ここまで。
隠し事のないオープンな夫婦ってなんだ。
誰でも隠しておきたいことの一つや二つはあるだろう。
秘密を保持すること、自分のサンクチャリを設けることで円満にいくのではないのか。
 
『サヨナキが飛んだ日』
 
『マリッジ・サバイバー』がネガなら、こちらはポジの話。
視点を変えてのストーリー展開。クラブDJの見事な曲のつなぎ方に匹敵する。
 
『今夜宇宙船(ふね)の見える丘に』
 
ぼく的にいちばん好きな作品。書き下ろし。
父親の介護のために出戻った息子。大学卒業後、会社員がなじまず、
非正規社員で働いていたが、その頃、
謎の飛行物体が目撃というニュースが頻繁に流れる。
父親の「譫妄」はひどくなる。
息子のわずかな貯金も底をつき、父親の年金頼りのかつかつの暮らし。
なぜか父親はUFOが見たいと。つてを頼って現われそうな場所へ行く。
懐かしの第一種接近遭遇。
オチがフレドリック・ブラウンのようで見事な着地。
 
『愛を語るより先のとおり執り行おう』
 
PCやスマートフォンで墓参りを売りにしている寺や霊園があるけど、
近い先、それがもっと発展したらこうなるという話。

葬儀も焼香から霊前・仏前まで一切がオンラインで完結。
そんなVR葬式はいやだ。ワシが死んだら昔のような葬儀をしてくれと。
ところが、もはや過去の遺物でリアル葬式の再現に、ひと苦労。
 
やれIoT:Internet of Thingsだの、5G(第5世代移動通信システム)だの
相変わらずバラ色の未来をアピールしている。
でもすべてが光ではなくて影もある。
便利、効率などを求める人にはウエルカムだが、
決してそうではない人もいる。
今度は長篇のSFが読みたい。