実弟だから斜汀というのは、あんまり

 

百本杭の首無死体: 泉斜汀幕末探偵奇譚集

百本杭の首無死体: 泉斜汀幕末探偵奇譚集

 

 


『百本杭の首無死体』泉斜汀著 善渡爾宗衛  杉山淳 編集を読む。
作者はしかし泉鏡花実弟実弟だから斜汀というペンネームとは。
洒落なのか、勢いなのか。
「くたばっ てしまえ」から筆名にした二葉亭四迷みたいに。

『彌太吉老人捕物帳』は、元与力の怪事件を振り返って語る形式。

「幕末の名探偵ホルムス老人」

 ホルムスってホームズのこと、念のため。あらっ。『半七捕物帳』と似た形式。

半七は岡っ引きだから、与力の方が各上だが。

違っているのは、『彌太吉老人捕物帳』は取材に基づいていること。
老人の話をどこまで面白く、怖く脚色したのだろうか。
 
ただなあ、『半七捕物帳』と比べると文体が読みづらい。
講談調とでもいうのか。
なんか尾崎紅葉の『金色夜叉』の文体に通じるものがある。
おそらく当時の「大衆小説」のメインストリームだったのだろう。

もう少し今風に書き換えてみるともっと受けるかもと思った。
『半七捕物帳』の文体は古びていない。
岡本綺堂の苦心のたまものか。
何か新しい捕物帳でTVドラマを企画中の関係者なら
良きヒントになるだろう。

挿画が小村雪岱。いい線です。しかもクールでげしょ。
原田治がリスペクトしていた画家、装丁家
資生堂意匠部」にも在籍していたので
グラフィックデザイナーのモダンなセンスも。
 
小村雪岱といえば泉鏡花の本の装丁で名高い。
あえてそれを持ってきたのか。
しかし、マニアックな本を出してくれた版元には」感謝!