懐かしい人

 

いつもの喫茶店のいつもの席に彼がいた。よく彼との待ち合わせに使っていた喫茶店
何気なくふと見ると、窓越しに彼が恥ずかしそうに微笑んでいる。

 

ああ死んでいなかったんだとなぜか思ってしまった。彼の葬儀には出たはずなのに。
あれから20年。私はあれから誕生日を20回も祝ってしまった。彼は20歳の彼のままだ。なんか狡い。許せない。でも久しぶりなのに私が私だとわかってもらえてうれしかった。いまだに優雅な独身だから所帯臭さはないかもしれないけど。

 

彼が亡くなってからいろいろあった。ごくごくありきたりの人生だけど、そりゃあいろいろあるわよ、ないようで。こうなったきっかけの半分は、20歳で亡くなったあなたのせいなんだから。

 

私は喫茶店の扉を開け、彼の向かいに座り、コーヒーを注文する。ガラス越しに午後の柔らかな光が入り込む。

 

何か用なの。まあ別に用がなきゃ会わないって法はないけど。まったく、いっつもそうだった。突然インド行くから金貸してだの、明日田舎の父親に紹介するだの。そして今日の今日。

 

夕方から営業会議だから、あと20分位しかないわよ。
出るなら、私の部屋に出なさいよ。
知ってるでしょ、オレ、幽霊なんだから、夜、部屋に出たら。
あ、そうか。私はコーヒーを一口飲んでからわかった
気を遣っているわけね。
いま、年下の男とつきあってること知ってて、遠慮してるんだ。
らしくもない。

 

でも、こうしてこの店にいて、坂道を歩く人を眺めているとなんだかほっとする。
こんな風に時間って流れていくんだ。

 

これからさ、古着屋のぞいて、イーグルスのLP買うんだけど。
どうする。と、彼が尋ねる。
どうするって、私は会社に戻んなきゃ。
会社って、何かバイトしてたっけ。
ええっ。何、つまんない冗談いってんのよ、もう。

 

支払をすませて、扉を開ける。
茶店の窓ガラスには、20年前の私が映っていた。

 

古いUSBメモリーにあった昔書いたやつ。

 

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