東日本大震災から8年。父も、母も、猫も、いなくなった。
昨日の朝、居間の戸を開けたら、見知らぬ男がいた。
玄関を抜けてから坪庭まで勝手に入って来た。
狭小古家だからあっという間。
昨日は洗濯機の搬入がある日だが
予定では午後。
早過ぎだろ。
男は日本人ではなかった。
浅黒い肌、がっしりとした体躯。
東南アジア系か。
「何か用ですか」と聞くと
「友だちの紹介で来ました」と日本語で答える。
「友だちの名前は」と尋ねると
「わかりません」。
らちが明かないので
「警察、呼びますよ」と言うと
「わかりました」と立ち去った。
その辺をうろついていたらいやだな。
気味悪くなって
2階から下を見ると影も形もなかった。
「民泊先、間違えたんじゃないの」と妻が言う。
「なら良いけど」
確かに民泊と思われる外国人ツーリストを割と目にする。
でも、手ぶらだった。
猫や小鳥なら闖入は大歓迎だが。
怪しい男が飼い猫になる夢を見た。
洗濯機搬入で玄関の本棚を移動させた。
そのとき、落ちたアルバムの開いたページに
まだ子猫だった彼女の写真。