キモい グロい うまい

アオイガーデン (新しい韓国の文学シリーズ)

アオイガーデン (新しい韓国の文学シリーズ)


いまどき珍しい腰の曲がった老人。
駅のエスカレーターを使わないで
階段をさっそうと駆け上がる。

『アオイガーデン』ピョン・ヘヨン著 きむ ふな訳を読む。
アマゾンのレビューでキモいとかグロいとか書いてあったのが、ひっかかった。
計9つの短編。
キモいところもグロいところもあったが、
そういう表現方法を取らなければ作者の書きたいものが書けなかったのだろう。
短い感想を。

『貯水池』
まあともかく小汚い貯水池。
いろんなものが不法投棄されてますます汚染されていく。
女子学生の死体もそこに沈んでいるのではと見なされる。
いっぽう、貯水池そばに隠れて住んでいる兄弟。
母親の安否は。
ブラックメルヘンの味わい。
もろ日野日出志ワールド。

『アオイガーデン』
ガーデンとは名ばかり。
パンデミックを引き起こした団地の名前だもの。
団地もヤバいが、中にいる住人たちもヤバい。
猫の不妊手術をする姉と足の悪い弟。
園子温の『冷たい熱帯魚』ばりの
グログロのぐちゃぐちゃ。
訳者は「ディストピア」というが。

『ピクニック』
若いカップルがクルマで観光地に行くロードノベル。
恋愛模様もあやしい雲行き。
途中タンクローリーに襲われる。
逃げたつもりでも霧の中にあらわれるタンクローリー
タンクローリーを主役にしても面白い。
暴走タンクローリーという題名はいかがすか。

『紛失物』
これはホラーじゃなくて出世が遅れたサラリーマンの話。
昇進というニンジンを引き換えに秘密の書類作成を依頼される。
必死こいてつくるが、満員電車でカバンごと行方不明。
情報漏えいと騒がれているが、
人はどこでもスマートフォンを広げている。
ある意味、ホラーより怖いことかも。

テーマの選び方と小説への仕立てがうまいと思った。
苦い笑いもあるし。
『ピクニック』『紛失物』以下の4作品は
ソール・ベローやフィリップ・ロスなどいわゆる
アメリカ文学ユダヤ系作家の作品を彷彿とさせる。
誤読じゃないぜ。

 

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