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海亀たち

海亀たち

 

『海亀たち』加藤秀行著を読む。
これがノンフィクションだったら
すぐにでもBS特番かシリーズものになりそうな話。
タイトルは『われら世界人(コスモポリタン)―海亀たち(仮)』。
ベトナムで起業するが失敗、タイで中国人のビジネスパートナーと
出会い、捲土重来を狙う。きっかけは東京で見た
美しいベトナムのビーチの1枚の写真。」
とかいう長ったらしい副題がつく。
トップカットは悠然と南の海を泳ぐ海亀のシーン。

外国を舞台にした小説だと旅人として物見遊山。
異文化体験や異国情緒に味つけで恋愛スパイスを利かせたり。
てのがクリシェだったけど。

主人公は日本でネット系代理店の営業マンにたいなことをしていたが、
ベトナムへ。
全財産をはたいて日本人観光客相手のゲストハウスのオーナーとなる。
しかし開店休業、資金が続かなくなりプランは頓挫する。
ま、ありがちな話。

「旅の恥はかき捨て」と言う。
旅ゆえいつか還る、逃げ道がある。
旅じゃなくて暮らす。それどころかショーバイするのだから、
覚悟がいる。でも、なんとなく軽い。

主人公は成り行きに任せる。
ひょんなことから雇われオーナーに。
合間にはじめたショーバイがヒット。
チャンスがあればもう一度起業したい。
それがかなう目が出てきた。
でもIPOで大金ゲットじゃなくて
そことなく小商い風。
そこそこ儲けてそこそこいい暮らしができればいいみたいな。
自堕落でもないしエコノミックアニマルでもない。

彼はそれまでの日本人のように
必要以上に欧米人に劣等感、
必要以上にアジア人に優越感を抱くこともなく、
ごく自然にふるまう。
言葉が通じる日本の田舎に暮らすよりも
言葉が通じない東南アジアに住んだ方が
なぜか気持が通じる。ってことなのかな。

昔、バリ島の食堂で偶然しゃべった日本人の若者は
日本人をダイビングスポットへマイクロバスでの送迎をしていた。
関西出身とか言っていた。こんな仕事は辞めたいと言っていた。
深いわけは聞かなかった。

この小説が文学なのかと問われると評価が分かれるだろうね。
旧態然とした文学観の人は認めないだろうし。
でも新しいのかと考えると決してそうでもないし。
さっぱりした読後感は、根っからの悪人が出てこないからなのだろうか。

海亀とは海の向こうのアメリカの大学や大学院で学び
卒業後リターンして就職したり、
起業する中国人(香港人・台湾人含むか)のことだそうだ。

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