薄皮一枚

永山則夫 封印された鑑定記録

永山則夫 封印された鑑定記録

永山則夫-封印された鑑定記録-』堀川惠子著 を読んだ。
ディレクターが著者。
TV番組「永山則夫 100時間の告白~封印された精神鑑定の真実~」の書籍版。
寝食は忘れないが、瞬く間に読んでしまった。

 

作家井出孫六が永山の弁護人から差し出されたノートを見て
編集者として長年培った経験で、ショーバイになるコンテンツと踏んだ。
それが『無知の涙』。

 

彼の二代目の精神鑑定医となった石川義博は、
医局で加賀乙彦の指導を受ける。
そして、土居健郎の厳しい指導を受ける。
そこで、基礎研究ばっか科学じゃなくて「臨床も立派な科学である」と。
永山と向き合って彼の貝の殻のように固く閉じていた心を開く。
その粘り強さと真摯な聴く姿勢。
土居の代表的著作『甘えの構造』は、まんま永山に当該するような。

 

同じ素材を扱いながら
映像と文字、メディアの違い、デメリット、メリットを感じた。

たとえば、永山の肉声や
石川先生のやさしさは、映像だとダイレクトに伝わる。

TVのドキュメンタリーだと尺数のせいで
編集でカットしなければいけないが、
本で読むと番組でカットしたところも載っている。

永山の家が極貧だったことは知っていたが、
当時、もっと貧しい家はあった。

意外だったのは、永山の兄弟は総じて成績優秀だったということ。
しかし、進学させる経済的余裕はなかった。
映像では、ここが印象に残っていない。

兄弟で夜間高校を出て大学の二部に働きながら入学した者もいたが、
やはり学費が自力では捻出できず断念。

虐待やネグレクトを受けた子は、やがて親になっても
同じ行為をするようになる。
永山は、「3回捨てた」拒否された母親よりも暴力を振るった兄を頼る。
たとえ暴力でもハブらず、扱ってくれたから。

 

石川鑑定は、
名探偵モンク』に出て来るモンクのかかりつけの精神科医の
クローガー先生を思い出す。

 

兄弟たちの目を引くために「連続射殺事件」を起こした。
甘えというか未熟というか。
赦される行為ではないが。

 

家族・兄弟、親族は、セーフティネット、互助会的機能を
果たしていたが、いまは、かなり破綻してきた。
長男が経済的理由で大学進学を断念して
学力優秀な次男の大学進学の入学費用などを支援するといったような。

 

何らかしらのセーフティネットがあれば、「連続射殺魔」は登場しなかった。
救えたとは思う。生きるに値する社会、人生。

鬱積したものを妄想で昇華できるのか、
実際に凶行への引鉄を引くのか、その差は薄皮一枚だ。

関連エントリー

辺境は遍在する - うたかたの日々@はてな

サンキュッ - うたかたの日々@はてな



人気ブログランキング