アリス・マンローにうなってしまった

ディア・ライフ (新潮クレスト・ブックス)

ディア・ライフ (新潮クレスト・ブックス)


良い短篇小説集は、良いLPアルバムに似ている。
1作、1曲ごとに異なる風景や心象を見せながら、
1冊、1枚、全体で完結している。

アリス・マンロー著の『ディア・ライフ』を読む。初読。
短篇小説の名手として誉高く、ノーベル文学賞を受賞した作者。
プロフィールを見たら、亡くなったぼくの母より数歳年下。

育児と家事の合間に執筆をするというスタイル。
幾度となく推敲を重ねて作品を丹念に仕上げていったそうだ。
人生で出会う悲喜こもごもを、書きつづる。
日常性を文学の高みまで究めた。
安っぽい共感を抱いてしまうのは、
作者に対して失礼かも。
たぶん世代によってはまるところが違うだろう。

どう言えばいいんだろう。
小さな盆栽に、広大かつ深淵な世界、宇宙を感じさせるように、
優れた短篇は、読み終えてからの余韻、後引き具合が深い。
むやみやたらに読み飛ばせない。
><BR><
漫画誌の連載漫画が、1駅間で読める枚数に設定されているそうだが、
ぼくは、この本の中の1作を働き先のまでの行き帰りで読んだ。

超濃厚なエスプレッソ。
あるいは、前日の夜に、煮干しの頭と腹を裂いて
だしを取った味噌汁。

特に「フィナーレ」と銘打たれた最後の4篇は
ほぼ「自伝的な作品」だそうで、ほぼ私小説といっても
構わないだろう。

私小説というと、自堕落ぶりを自虐的に吐露する風に
思われがちだが、それは余りにも偏狭な捉え方だ。

幸田文向田邦子そして永井龍男など、
ぼくの好きな日本の短篇小説作家にも通底している。
同じカナダ出身のジョニ・ミッチェルのアルバムにも。

J.J氏(植草甚一)風に言うならば、アリス・マンローにうなってしまったと。

人気ブログランキング