忘却のしかた、記憶のしかた

忘却のしかた、記憶のしかた――日本・アメリカ・戦争

忘却のしかた、記憶のしかた――日本・アメリカ・戦争

『忘却のしかた、記憶のしかた』ジョン・W・ダワー著を読む。
大著『敗北を抱きしめて―第二次大戦後の日本人』で、読んだことの無かった
見たことのなかった戦後まもない日本、日本人像、日米関係にやられてしまったが、
同様にこの本でもまたやられてしまった。
今の捩じれた日米関係も、今にしてはじまったことではないことがわかる。
本作は、選り抜き論考集。丁寧に作者による「書き下ろしの解題」までついている。

以下、適宜引用と適宜感想。



「もしだれかがいまのアメリカ人に、第二次世界大戦がどのような点で
人種差別的だったのかと聞けば、圧倒的多数は、ナチスによるユダヤ人大量虐殺をあげるだろう。しかし戦争のさなかに、アメリカ人がもっとも残虐とみなしていた敵はドイツ人ではなく日本人だった」


白人よりも黄色い猿の方が憎みやすい。メガネかけた出っ歯の男が、典型か。


「ほとんど例外なく、アメリカ人は日本人が比類ないほど邪悪であるという考えにとりつかれていた」

 

“リメンバーパールハーバー”に始まって、“ノーモアヒロシマ”で終わる。

沖縄戦が国内唯一の地上戦と言われるが、
降伏することなく本土でも地上戦が行われていたら。
コッポラの『地獄の黙示録』で出てきたベトコン兵のような
恐怖や戦慄を米兵に与えることができたろうか。


「太平洋戦争に浸透した人種憎悪の辛辣さを思えば、まず、日本の降伏後にアメリカと日本人が、これほどまで迅速に、親身な関係にむかって動くことができたのは、驚くべきことのように思える」


「昨日の敵は今日の友」。米ソ冷戦時代のおかげか。



「アメリカが、戦後日本の守護者として軍事的な役割を引きうけたことは、彼らの抜け目ない合理的な政策からであったが、日本人の目からすると、それはとらえがたい、ほとんど潜在意識ではたらく論理によるものだと映った」

 

アメリカは、ライ麦畑にいる日本人たちを見守っているホールデン・コールフィールド。でも、誰が保護してくれと頼んだと叫ぶ中学生みたいに、か。



「外国人のあいだでは、「日本人」が過去の汚点を消毒して取りのぞき、戦時の侵略と残虐行為をみとめることができずにいる、ということが流行りになっている」

 

右旋回は「流行り」なのね。



「一般の日本人の「戦争責任」の意識にかんしてより重大だったのは、
裕仁天皇が、その名のもとになされた政策や行為について、いかなる責任からも免除されたことだった。戦後にナチス体制が排除されたドイツとちがって、敗北した日本では、決定的に過去と袂をわかつことがなかった」

 


「勝者アメリカの側にとって、これは実利的な判断だった。彼らは、日本人がたしかにおとなしく占領に従うようにするため、裕仁天皇を利用することが好都合だと思っていた」

 

だから、「取り戻す」なのか。



「アメリカが、敗戦国日本に民主主義を制度化することができたのは、
究極的には、たんに戦前の日本に民主主義の強い伝統があっただけでなく、それまであった官僚機構が生き残り、占領軍に協力したからだった」


皇軍敗れて官僚あり。良きにつけ悪しきにつけ官僚が牛耳っているってこと。



「「サンフランシスコ体制」と「55年体制」、この2つのシステムが
戦後日本の平和と民主主義を支えてきた」

と述べているが、経済的反映もある。

1946年版新版いろはかるた(佐次たかし、寺尾よしたか)を取り上げている。
これは、全く知らなかった。
当時の世相を風刺していて笑える。
三木鶏郎の『日曜娯楽版』の先駆けと言ってもいいかも。
図版をスキャンしてみたが、いまいち不鮮明。
たとえば「いぬも歩けば鍋にされる」「骨折り損の負けいくさ」など。

忘れたいこと、あえて忘れたいこと。
覚えておきたいこと、覚えさせておきたいこと。
人それぞれ。強制や無理強いは、ちょっと。

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