せきらら日記

ピープス氏の秘められた日記――17世紀イギリス紳士の生活 (岩波新書 黄版 206)

ピープス氏の秘められた日記――17世紀イギリス紳士の生活 (岩波新書 黄版 206)

ぼくは入門書も好きなのだが、日記を読むのも同じくらい好き。
あまり立派な意見を論じたものよりは、
悪口、ひがみが書かれたものや借金を申し込んで断られた。とか、
そういう内容にぐっとくる。

『ピープス氏の秘められた日記』臼田昭著を読む。
懐かしの岩波新書黄版。
「17世紀イギリス紳士の生活」という副題の通り、
後年「イギリス海軍大臣」にまで上りつめた
実在した官僚の「10年間の日記」の抜粋と解説。
作家なら公開(出版)されることを意識して、少しはぼかしたり、
脚色した日記を書くだろうが、
この御仁は、金欲、物欲、出世欲から性欲まで
臆面もなくというか「率直」に記していて、面白い。
日記で憂さ晴らしをしていたようで、
「王様の耳はロバの耳」とツボに叫んでいた状態。

当時の政情や中産階級や諸貴族王侯の生態なども
いきいきとうかがい知ることができる。
アホ過ぎて笑える場面もしばしば。
いまなら現役官僚がブログで
浮気話や賄賂、派閥争いなどを書いたら大事になるだろうに。

ピープス氏は、一言で言うと、せこい。
どことなく東海林さだおのショージ君っぽい。
悪党なら小悪党。
蓄財についても、賄賂などがっぽり殖やすのではなく、
がっぽりは下品と言わんばかりに
それなりの額をいただいて言い訳を日記に書く。
ファイナンシャル(家計管理・財産管理)は、男のすなる仕事で、
フランス人の妻がいるが、
妻のおニューの服を買うのは大英断。
そのくせ何倍も高い自分の衣服は平気で買い求める。
ルノワールの絵画のようなふっくらとした裸女が好みのようで、
隙を見てはちょっかいを出す。
憧れの貴族の奥方には、妄想を働かせる。
ついに、妻の世話係の女性に手を出すも、
バレてしまい妻に激しくキレられる。

しかし、ピープス氏は「しがない仕立て屋の息子」、
「奨学金を得てケンブリッジ大学に学ぶ」。
スタートは、「遠縁の海軍提督の家令のような仕事」と
「大蔵省役人の私設秘書」、いまでいうところのダブルワークで
つましい暮らしをしていた。

彼は、官僚で成り上がって行く裏には、
ワーカホリック的仕事ぶりがあったそうだ。
その旺盛な好奇心が、キャリア形成と成功の役に立ったのだろう。
ノンキャリアたたきあげで、自分の才覚といくばくかの幸運で
イギリス海軍大臣」になる。
蔓延したペストやロンドン大火も
日記から読むと、史実からのアングルとは異なって見える。

まさか何世紀も後に極東の島国で読まれるとは
思ってもいなかっただろう。

人気blogランキング