1969年7月20日

ぼくの大好きな青髭 (新潮文庫)

ぼくの大好きな青髭 (新潮文庫)

庄司薫祭り。『ぼくの大好きな青髭』庄司薫著を読む。
1969年7月20日、主人公が、
新宿紀伊国屋書店の喫茶店『ブルックボンド』に入るシーンで、
ぼくも紅茶にマドレーヌを浸して食べた状態になってしまった。
忘れていたが、本を買って『ブルックボンド』で紅茶を飲むのは、
本好きヤングの決まり事であったかも。
ぼくも待ち合わせに使ったりしていた。
薫くんは『ブルックボンド』から『風月堂』に行くが、
彼より5歳年下のぼくは『風月堂』には遅れてきた世代で、残念。でもないか。
当時の新宿や若者の生態を、かなり克明に知ることができる。
学園紛争が下火になると、
今度はいまでいうスピリチュアルなものへと関心のベクトルが
変わりだす。
物質的に満たされると、精神的なものへの充足を希求するってことで。
歌舞伎町にあるスナック『葦舟』を訪ねる薫くん。
そこはコミューンというのか新しい精神社会をめざすところだった。
青髭はカルト教団のリーダーなのか。
ほんとうに実在するのか。ちょっぴりミステリー風味。
自分探しの旅は、この頃から始まっているのかと痛感。
どうもオウム真理教を想像してしまう。
あるいは『IQ84』に出てくるカルト教団「さきがけ」とか。
つっても、川田宇一郎ほど強引に、庄司薫村上春樹を結びつけないが。
ちなみに、青髭のモデルとなったジル・ド・レイは、
多数の男児を暴行、虐殺、屍姦したそうだが。


新宿御苑で女の子と青髭に遭遇?するシーンは、
とてもいい。
たった1日の話なのだが、
グッバイ青春、大人への通過儀礼を体験してしまったかも。
オーバートークだというなら、
次への扉を開けてしまった。
映画『アメリカン・グラフィティ』は、一夜のできごとだったが、
構造的にはおんなじ。


さて、この本は薫くんシリーズ「四部作完結編」だそうだ。
作者は、自分が書くべき小説は、
これで書き尽くしてしまったと思ったのかもしれない。
ラジオ番組でゲストの大瀧詠一に「もう歌わないのですか」と
訊ねたら、「もう歌ってしまったから」と答えていたが、
きっとそんな感じなのだろう。
絶対凍土で保存されていたマンモスの骨か。
遺跡から発見され開花した古代ハスか。
思わぬ収穫だった。


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