負けるな、虚構

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

『悪と仮面のルール』中村文則著を読んだ。
奥泉光辻原登など純文学の逆襲派−勝手に命名−の一人で、
部厚いがページをめくるスピードを最後まで緩ませることなく読ませる。
軍需産業で儲け財閥となった一族の末子として生まれた主人公。
ファナティックなカリスマの父親と年の離れた異母兄弟。
キャスティングするなら、平幹二郎とか。
あ、主人公は実の倅の平岳大ってのは。悪くない。
自らに流れている血を呪い、逃避するが、執拗に追われる…。
幼なじみで初恋の人で初体験の相手、今は高級クラブのホステス嬢や
テロも辞さない過激なカルト宗教などネタの大盤振る舞い。
エンディングがハリウッド映画のようで、
作者にしては珍しく救いがあって、後味がそこそこに良い。
ただ中目黒の夫婦殺人事件の犯人と思われる男が、
韓国にも家族を持っていたなど、実際の事件で虚構以上の事実が露呈すると、
ミステリー、ピカレスクロマンは、
もはやSF以上に描きにくいジャンルなのかもしれない。
いや待て。そういってしまうのは、ちと早計かも。
昔の物語の構造を換骨奪胎、要するに拝借してリメイクしても、
いける、たぶん。
この本を読んでストーリーの流れが、どことなく、デュマあたりを
連想したりして。


探偵小説が、犯罪のトリックや犯人あてに終始していたが、
そうじゃなくて、も少し社会性やキャラクターの人生など間口を広げたのが
推理小説(違うか)。
線引きしてもせんないことか。
ただここまで劇画チックになってしまうのは、どうなんだろう。
実際、新しいファンは獲得できたのだろうか。
表紙のイラストレーションを見ると、ライトノベルファンも
取り込みたいのかしらん。


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