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蟻族―高学歴ワーキングプアたちの群れ

蟻族―高学歴ワーキングプアたちの群れ

『蟻族 高学歴ワーキングプアたちの群れ』の書評。


先だって尖閣諸島の中国の領有権を訴える大規模な反日デモ
中国の地方都市で頻発した。
ニュース映像は、反日をアピールする若者たちを映していて、
彼らのことを「八〇後(パーリンホウ)」と紹介していた。
つまり、1980年代に生まれた世代。
ちなみに1990年代に生まれた世代は「九〇後(ジウリンホウ)」というそうだ。


「蟻族」は、「八〇後(パーリンホウ)」で、

「改革解放後に生まれ、−略−中国経済の急成長と社会の大きな変化を
目撃してきた」

世代だとか。
「戦争を知らない子どもたち」をもじるなら、
「ビンボーを知っている子どもたち」が、「八〇後(パーリンホウ)」。
「ビンボーを知らない子どもたち」が「九〇後(ジウリンホウ)」なのだろう。


で、「蟻族」って何だ?「大卒低所得群居集団」のことだそうだ。
学歴は高いが、まともに就職できず、つーか急激な大卒増による就職難で、
家賃や物価の安い北京郊外の「唐家嶺(タンジャーリン)」などに
間借り生活をしている。
地方出身者で親元は裕福でないので、自活を余儀なくされている。
劣悪な居住環境、信じられない交通渋滞などにも耐えながら、
ひたすらステップアップするチャンスをうかがっている。


このあたりが、戦前の日本の下宿していた大学生と似ている気がする。


この本の最も魅力的なところは「蟻族生態図鑑」ともいうべき
彼らの生い立ちや学歴、経歴などを取り上げているところだろう。
もちろんそれぞれに異なるのだが、
共通しているのは、成りあがろうとする、這い上がろうとする意志の強さ。
たとえば一攫千金を狙って貯めていた金をはたくが、結局は騙されてしまう。
友人だろうが、同朋だろうがスキがあれば騙す。でも再び立ち上がる。
断じて、草食系じゃない。夢が北京に家を買うことだそうで、でないと、
彼女と結婚もできないとか。いやあガッツがあるわ。


「蟻族」の不満が臨界に達したら、矛先が、反日から中国政府へと
いつ変わるかもしれない。
大学まで出ているのに、なぜ希望する職業に就けないのか。
なぜ高卒の労働者の方が現在の自分の給料よりいいのか。
社会が成熟化すれば現在の中国共産党体制には、矛盾を感じて当然だろう。
ましてや偏差値の高い蟻たちにとっては。


中身の濃い本である。ただし、訳文が少々ぎこちない箇所もある。
大学の先生が翻訳したのか。それからレイアウトに工夫がなく、
読みづらいのが難点だ。
せめてタイトルと小見出しのポイントの差はもっとつけてほしい。
できれば、タイトルの後にリード文があれば、
読む人にもわかりやすくなるだろう。
もっというなら、「蟻族」の面々を紹介するなら常に右ページの頭という
レイアウトなら、とも思った。大きなお世話かもしれないが。


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