伝説の出版社

ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)

ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)


『ボン書店の幻』内堀弘著を読む。
時は「1930年代」とてもモダンな詩集などを刊行している出版社が
池袋・雑司が谷にあった。
詩人であり、経営者、編集者、装丁者、活字工、印刷工、
一人何役もこなした男、鳥羽茂。
彼の個人出版社がボン書店。
その知られざる生涯を探る。
詩人の面々がすごい。「北園克衛春山行夫安西冬衛」などなど。


ボン書店は採算度外視。いいものを、安く読者に提供したかった。
刊行していた本の一部が写真で掲載されているが、とても、モダンだ。
本、とりわけ詩集は装丁も大事な要素だろう。
印刷業の儲けも自分が納得のいく本のためにぶちこんだそうだ。
薄利多売ならカツカツやっていけるかもしれないが、
薄利少売では、やっていけるわけがない。
貧しさと病に負けてひっそりと出版社をたたむ。
出していた本の評価は高く、古書の売値も相当らしいが。
古書店主である作者は、鳥羽の消息をたずねて歩く。
その顛末があとがきに記されている。


活版印刷、活字拾いというと宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』のジョバンニを
思い浮かべる。
活字好きといまだにいうが、とっくに活字ではなくなっている。
靴なのに下駄箱というが如くか。
はるか昔、高校生のとき、新聞部で学校新聞をつくっていたが、
活字ではなく写植だったと記憶している。


鳥羽茂の余りにもピュアな芸術的な生き方、余りにも世渡り下手な生き方は、
賢治の童話に出てくる登場人物のようでもある。


インターネットやDTPの時代で
ボン書店のような個人出版社の生きる道はあるのだろうかと、ふと思った。
作りたい本だけを作って、人並みに食べていける。
あると思うんだけど。


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