書き言葉

プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?

プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?

小雨の中、九段下へ。
九段会館を背にパレスホテルを抜けて。
新宿から引っ越した制作会社で
オリエンのような、打ち合わせのような。


プルーストとイカ』メアリアン・ウルフ著の感想メモ。

ソクラテスはなぜ書き言葉の普及を非難したのか」
「文化的記憶を保存するうえで書字のほうが有利であることに議論の
余地はないことはわかっていても、それ以上に、個人の記憶力と、それが、
知識の吟味と具現化に担う役割とを保つことが重要だったのだ」

要するに文字のおかげで文化的情報が
大量複製、大量流通されるようになったと。
羊皮紙やパピルスから活版印刷の発明、
でインターネットやケータイメールで
どんだけ文字情報が氾濫しているのかと。

「文章を読むことに比べれば楽なインターネットのアクセスに
味を占めてしまった大勢の生徒たちは、自分の頭で考えるということを
まだ知らないのかもしれない。視野が狭まって、素早く間単に目と耳に
入ってくるものしか見聞きしないので、このコンピュータという最新の高性能な
箱の外でものを考えねばならない理由がないからである。
こうした生徒たちは、読み書きできないわけではないものの、
本物の熟達した読み手になることはまずあるまい」

「本物の熟達した読み手」になれなければ、
「本物の熟達した」書き手になれない、か。
ま、紋切り型。もうこういうのは耳タコで、
日本語及び日本文学を大げさに憂いている某作家先生と同じで。

「書記言語を習得できない」ディスクレシア(読字障害)についても言及している。
「エジソン、ダ・ヴィンチアインシュタイン」から確かトム・クルーズも。
字が読めない=知的障害ではないわけで、これはなかなか。

この本の出版プロデューサーの解説に目をひく箇所があった。

「英語と中国語をともに使えるバイリンガル脳梗塞になった際、中国語は
読めなくなったが、英語は読めていた。−略−
私たち漢字仮名を用いる日本語の読み手は、アルファベットと漢字をそれぞれ読むのに
近い異なる脳の回路を併せ持っているのだという」


英語はアルファベットの組み合わせだけど、漢字は表音文字表意文字
ややこしいったらありゃしないんだろうね。

先日の「武田シンポジウム2009」で長谷川眞理子が、
ネット社会の弊害は書き言葉依存症的発言をして面白かった。
言葉はシンプルな文字の連なりなので、メールなどでは相手が見えない。
実際に会えば、言葉もさることながら表情(ボディランゲージ)で、
伝わる、わかるものがあると。

ブログが荒れたり、炎上するのも、匿名で書き込めることよりも
案外、書き言葉だからというのもあるだろう。
ソクラテスの言ってることも一理ありかなと。


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