ひりひり

抱擁家族 (講談社文芸文庫)

抱擁家族 (講談社文芸文庫)

脳ミソまでとろけそうな(by伊藤銀次)今日この頃。
プレゼンの結果がちょい延びて、
お盆休み前の駆け込み仕事が入ってきた。
年末・年始とお盆休み前は、
よそ様が断った仕事を落穂拾いのように、頂戴する時期でもある。


抱擁家族小島信夫著、読了。
これはいい。読みながら、ひりひりしたもの。
こういうのが本来のホームドラマっていうんだろう。
メシばっか喰っているんじゃなくて。
作者は、身辺を素材に小説を仕立ててきた。
この作品もそう。


妻の浮気(作者と思われる主人公も内緒でしていたと思われるが)に
はじまり、妻の羅病、入院…。
主人公の小説家はアメリカ留学体験もあり、ふだんは理性的にふるまっているが、
時折、抑制できなくなって、マグマのようにパトスが噴出する。


「ドラマは対立である」。これはかつて脚本家のジェームス三木
取材したときに、うかがって、名言だと思ったが、この作品もあてはまる。
夫―妻、男―女、日本―アメリカ、親―子、父―息子、
戦前―戦後。


これを書いたのが、50歳前後。晩年の作品と通じるもの、
ユーモア、モダンさなどは当然あるが、
予想以上に、濃厚で緊密な、かつ、
各登場人物、人間のいやらしさ、俗っぽさをここまで執拗に描いているとは。


たとえば、妻ばかりか相手の米兵にまで浮気を問い詰める、
その後、嫉妬からなのか情交を結ぼうとするが、うまくいかないシーン。
夫婦ならば誰もが経験する、互いの欠点の応酬、罵りあい。
何年、何十年経っても、夫婦は、しょせん、
他人なんだと現実に気づかせられる瞬間。
ニートのような息子。
家族をテーマにした昔の作品なのに、きわめて今日性が高い。
確かにモノクロめいたところはあるが、それらを差引いても。


巻末の作家案内に基づくと、

「昭和37年  国分寺に新居を建てる
昭和38年  妻ガンで死去
昭和39年  再婚
昭和40年 『抱擁家族』『群像』に発表」


何もかもをハグして、家族散会の危機を乗り越えようと、一方的に奔走する主人公。
家族という幻想を求めてのあまりの奮闘ぶりが、どこか滑稽にさえ思える。
そのくせ、奥方が亡くなったら、ちゃっかり、後添えを見つけたりして。


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