『小説版韓国・フェミニズム・日本』を読む-2

 

 

 
忘れていた。特別定額給付金申請書が届いていた。記入して書類のコピーをとって即、送る。
忘れていた。坪庭のクチナシが咲いていた。物干し台に出たとき、香りでわかった。
 
『小説版 韓国・フェミニズム・日本』の続き。
2名の男性作家の作品の感想。女流作家(フェミ的にアウトらしい)というから男流作家が正しいのかな。
 
デウス・エクス・マキナ』パク・ミンギュ著 斎藤真理子訳
「神の降臨」の話。突然、巨大な神様が現れる。
新世紀エヴァンゲリオン』の使徒のようなものか。
あるいはゴヤが描いた『巨人』のようなものか(デカ画像参照)。
リリパット国を訪れたガリバーか。
「科学者たちの推定した神の背丈は約560万フィート(1700㎞)」!
「アンクル」おじさんというニックネームをつけられた神様を世界中で固唾をのんで見守っていた。
動き出した神様の破壊行為。天罰なのか。
神様のハレンチ行為に世界の規律のタガが外れ出す。
単なる破滅なのか、新たな時代をつくるための破壊なのか。
末世の中、「僕と彼女は」裸になってダンス・ダンス・ダンス
いかにも、作者らしいポップな発想。
新型コロナウイルスも神の御業だったりして。

『モミチョアヨ』星野智幸
ルポライターの主人公は友人が「ソウル支社に転勤」になったので居候を決め込んだ。
友人は韓国語ができるが、まったくできない彼は外国人対象の韓国語の学校に通う。
街で『ビッグイシュー』を売っていた中年男性からホームレスのサッカー(フットサル)チームがあることを知る。
フットサル経験者の彼は、たかをくくっていたが、
そのチームの厳しいトレーニングに音をあげる。
で、練習ゲームではやたら脱いで鍛えた体を見せつける。
ハードな練習にもついていけるようになったが、日本への「帰国」が迫る。
別れを告げるシーンに熱くなる。
すんなりと楽しく読めて読後感も爽やか。
フットサル小説のアンソロジーを出すならば、ぜひ、入れてもらいたい作品。

 

 

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書き下ろし・訳し下ろし・大根おろし

童話『北風と太陽』ではないが、日増しに薄着になっていく。
このままいくと7月は全裸でんな~とボケてみる。
昼は手抜きで流水麺のそば。
もずくと納豆に大根おろし。うま~。
 
『小説版 韓国・フェミニズム・日本』を読む-1。
『完全版 韓国・フェミニズム・日本』から小説のみで編集。
作家が手を加えたり、新たに書き下ろし・訳し下ろしをプラスした12作品。
そこから短い感想を。
 
『追憶虫』デュナ著 斎藤真理子訳 訳し下ろし
最もインパクトのあった作品。

「追憶虫」は「地球外寄生虫」。「呼吸器を通して感染」する。
「特徴は、前の宿主の記憶を次の宿主に伝えるという点だ」

 

死に至る病ではないようだが、感染すると、知らない記憶がインストールされるのは、
想像するだに、厄介、迷惑。
場合によって他者の記憶が宿主をコントロールする。

「感染者は咳によって、その情報を持った幼虫を四方へまき散らす」

 新型コロナウイルス同様マスクが有効なのかも。

ブライアン W.オールディスの『地球の長い午後』に出てくる寄生植物アミガサタケを
思い浮かべた。
他の作品も読んでみたい。
 
『京都、ファサード』ハン・ガン著 斎藤真理子訳
日本人と結婚して京都に暮らしていた今は亡き友人の思い出。
次々と思い出すことが、疎遠になりつつあった関係を修正、供養につながる。
散文というか文体がすんなりしみてくる。
ファサード」は建物の正面だが、人の場合は表面とかたてまえを言うらしい。
同じ京都の異邦人つながりでなぜか
マイケル・フランクスの「Christmas in Kyoto」などを聴きながら読んだ。

『桑原さんの赤色』松田青子著 書き下ろし
なかなかアルバイトが決まらなかった女子大生。
やっとバイト先でいつも赤いアイシャドウの女性が気になる。
なんでも地雷メイクが流行っているそうで。
同じ赤いアイシャドウでもこちらは「復讐」の覚悟のメイクらしい。
時代は青鞜(ブルー・ストッキング)から赤瞼(レッド・アイシャドウ)。
赤いアイシャドウの女性たちが街を闊歩する。
ラストが決まっている。

二か月遅れで

 
何もなかったかのように混んでいる朝の電車。
デパートやショッピングセンターもオープン。
マスクが息苦しい季節になったが、
マスクと手指の消毒はめんどくさがらずに。
 
行きつけの図書館も今日から。
中には入れないので
読みたい本はネット予約。
案の定、混んでいた。混んでいる。
サーバ、大丈夫だろうか。
閲覧スペースでいびきかいて寝ていたお年寄りは
どうしているのだろう。
 
リモートワークや時差通勤になれかけてきた人が多いはず。
継続すればいいのに。
 
子どもがペット可の部屋に引っ越すので
早速、猫の譲渡会に行って来たそうだ。

画像を見せてもらった。
第一候補が、亡くなった猫にちょっと似ている猫。
うちに来てから子どもは猫の絵をたくさん描いていた。
年賀状にしたこともある。
 
『小説版 韓国・フェミニズム・日本』を読んでいる。
こじゃれたペーパーバック。
「訳しおろし」のデュナ『追憶虫』にやられてしまった。
「性別、年齢、経歴不明の覆面作家」だって。
SFなんだけど、プラスアルファの部分がある。他の作品も読んでみたい。
まとまれば後日、レビューに。
 
何もなかったかのように見えるが、
新たなフェイズに入ったと思う。
 
 

ヒトは装飾動物

 

 先日、若い女性がローライズのジーンズで折りたたみ自転車に乗って

脇をギリギリすりぬけていった。一陣の風が吹き、彼女のTシャツのすそがめくれて、
ちょうど腰骨の真ん中に施されてあるタトゥがお目見えした。
どう表現すればいいのだろう。ライトニングボルトを二つ組み合わせたような紋様。
 
タトゥでいいのか、刺青なのか。ブラッドベリの『刺青の男』の原題は「The Illustrated Man」。ローリングストーンズにも同じタイトルのアルバムがあった。
 
いま、『「装飾」の美術文明史』鶴岡真弓著を読んでいるんで、
そんなことを思い浮かべた。
作者はケルトブームの草分けの人で、『ケルト/装飾的思考』には度肝抜かされた。
もうひとつのヨーロッパ文明の深層を解き明かし、その潮流がはるか日本にも及んでいると。
たとえば、原型はケルトで生まれ、欧州からシルクロードで中国へ渡り唐草文様となり、日本に渡って、現在の形になった。そして東京ぼん太がリヴァイバルさせた(→蛇足)。
 

「いまでは「ゴシック」も「バロック」も「ロココ」も、時代様式の名前として使われていますが、いずれも装飾文様やモチーフの名前から来たものでした。
「「グロテスク」や「アラベスク」という概念も」「装飾/文様の名前でした」

 

 
バタイユの『エロティシズム』からの作者の引用。
 

「エロティックな体験は何らかの意味で、通常の外の世界に位置している。私たちの体験の全体から見ると、それは情緒の正常な交流から本質的に締め出されているのです」

 

 
なんとなくわかる。
 

「『装飾』の美術が打ち開くエロティックな関係の経験は、こうも説明できましょう。モノ=存在の表面に増殖する『装飾の力』は、私たちに『完成』ではなく『プロセス』を、『決定』ではなく、『暗示』の方法を告げ知らせながら、人間の生の展開を支えている」

 

「コンテンツ(内容)がフォーム(形式)に先行するわけではなく、芸術とはフォームがコンテンツを生み出しつつ現れてくる到来の現象なのです」

 

「実存が本質に先立つ」のではなく、本質が実存に先立つってことなのかな。
なんだかんだいって人は、ビジュアル系、ビジュアル志向。
銭湯で湯上り、マッサージ機にタトゥ入りの身体を揉ませていたり、
町内会で勇ましく神輿を担いでいるプチ刺青を入れた兄さん方も、そのようなことなのだろうか。
 
願わくば、図版・写真がカラーでもっと何葉かあれば、よかった。
最初の方にまとめてあるんだけど、もっと色気を。
 
中高年女性のドハデな柄物好き、いわゆる「オバガラ」「ガラモン」も、
何か通じるものがあるのだろうか。
 

お嬢さん お入んなさい

 

お嬢さん [DVD]

お嬢さん [DVD]

  • 発売日: 2017/07/21
  • メディア: DVD
 

 
図書館がやっと再開する。
手持ちの未読本も底をつき、再読本も飽きたので、
書店に行って仕入れる。

『小説版 韓国・フェミニズム・日本』、『われら』ザミーチャン著 松下隆志訳。
ブックジャンキー、好物はビーフジャーキー。

 

GYAOで『お嬢さん』パク・チャヌク監督を見る。
噂では聞いていたが、なるほど、好みだ。
なんと原作は、サラ・ウォーターズの小説『荊の城』。
設定を日本統治下時代に置き換えたそうな。
どおりで。
 
日本と英国に魅了されたお嬢さんの叔父。豪勢な屋敷には蒐集された稀覯本の数々。
お嬢さんの母親は亡くなっていて、お嬢さんに遺された莫大な遺産を狙おうと
「詐欺集団」から侍女として来た女の子。そして日本人の伯爵になりすます男。
男はお嬢さんのハートを盗んで最終的に財産を自分のものにしようとする。
騙し、騙され、話は二転三転…。
 
ストーリーが面白いのは言うまでもないが、絢爛たる映像美。映画美術が素晴らしい。
ツィゴイネルワイゼン』、『陽炎座』など鈴木清順映画などの美術監督だった木村威夫ばり。
金子国義画伯の少女緊縛シーンの油絵が映像になった感じ。
 
お嬢さんと侍女の女優がしなやかで偽伯爵や伯父の俳優がグロテスクで。
日本人役が多いのでセリフも日本が多いという異色の韓国映画
スラング差別用語もまんま日本語の会話に出てくるのは、なんか小気味がよかった。
お嬢さんと侍女の全裸ラブシーンは、修正がなければさぞ美しかったろう。
 

ウーバーアマビエ お代は災厄

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十字路で信号待ちしていると
それぞれにウーバーイーツのデリバリーバッグを
背負ったアマビエがいた。
 
日本全国いたるところに現われた。
略してウーバーアマビエ。
 
疫病退散、千客万来
注文者は料理と配達手数料を災厄で支払う。
災厄の度合いでお代が違う。
ウーバーアマビエ お代は災厄。

不気味な姿に怖れてはいけない。
いちばん悲しむことだから。
スマホで撮ってSNSにアップしてはいけない。
もっとも、撮っても写ってはいないから。
 
ウーバーアマビエたちを街で見かけなくなったら、
ようやくいつもの日々が始まる。
 

翳りいく街は、悪夢をむさぼる

 

少年トレチア

少年トレチア

  • 作者:津原 泰水
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫
 

 『少年トレチア 津原泰水著を読む。

 
東京郊外、緋沼(ひぬま)市新興衛星住宅団地、通称緋沼サテライトで、殺人事件が起きる。続いて、緋沼中央公園の鳥類園内で飼育されていた白鳥が児童により殺傷される。緋沼という名前のとおり、元々周辺一帯は沼地で、それを大規模な開発によって高層ビルが立ち並ぶ新しい都市が誕生した。

その界隈で制帽と制服姿のトレチアと呼ばれる少年の噂が、まことしやかに流布する。
都市伝説-少年トレチアはいつの間にか一人歩きを始める。本作と同じように、ニュータウン、団地をテーマにした大友克洋の『童夢』は、超能力を秘めた翁童がトリックスターとなっていたが、本作では小学生の男の子、トレチアがキーとなっている。
 
現在、大人となった若者たちは、小学生の時に、仔猫を殺戮し、さらに大きな罪を犯す。そのうちの1人、拝島が、突然トレチアに襲われる。次に、同じグループだった岩倉有希が行方不明になる。彼女の行方を追うミステリー作家志望の楳原。そこに漫画家でダウザーの蛎崎やサテライトの風景を8ミリで撮っている七与、現在の小学生グループの首領的存在である、天才児、新宅晟。登場人物たち、ひとつひとつのストーリーが少年トレチアに絡んでくる。

純真無垢であるがゆえに、少年たちはいったん残虐な牙をむくと止まらなくなる。そんな普遍的な少年の暴力性が描かれている。ただ単に気に入らないからスポイルする、これは、今に始まったことではないってこと。
 
いわゆるニュータウンとか団地に行ってみると、できたてのばかりの頃は、建物は当然真新しいが、なぜか公園が妙に浮いていたり、ところどころの造成予定地は、削られたままの無残な姿をさらけ出している。

工事が途中で中止となった造成地は、何やら放置屍体をイメージしてしまうのだが。
ゆるやかな坂道や整然とした街路樹など、すべてはアニメティとやらの基に設計された人工的な快適な空間のはずなのに、どこか、吹きだまりというのか、澱んだ、歪んだ空間がある。聖と俗、ハレとケのたとえを持ち出すまでもないが、そこは、まるで磁場のように、さまざまな穢れたものを引きつける。

緋沼サテライトだと、中央公園の人工池はちまん池だろう。その池には、巨魚、摩伽羅が潜んでいるという。
 
別段、古い街が良いと述べる気はさらさらない。今、江戸情緒だの、下町情緒だのを色濃く残している街だって長い年月を経て現在のたたずまいになっているわけだし。ただし、地価の下落や住人の高齢化などにより、古いニュータウンは空洞化している。住む人が不在となった家がすぐ朽ち果てるように、街もアンティークとなる前に、ジャンクとなってその生命力を予想以上に早く終えるかもしれない。
 
読むにつれ、作者の仕掛けた巧妙なトラップにまんまとはまってしまう。全体小説とでも呼べばいいのだろうか。

ミルフィーユのように丹念に緻密に重ねられた物語が、その恐怖のスケールの大きさや迫力を表現することに成功していると言っていいだろう。
団地の勃興から崩落までの物語として読んだし、本レビューもそういうトポス論的観点からのアプローチを試みたつもり。カタストロフィを迎えるクライマックスへの展開は、意見が分かれるところ。

メタフィクションは余り功を奏していないような気もする。ま、好みの問題なのだが。