シン・マジック・リアリズム

 

未知の鳥類がやってくるまで (単行本)

未知の鳥類がやってくるまで (単行本)

  • 作者:西崎 憲
  • 発売日: 2020/03/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

雨の日、『未知の鳥類がやってくるまで』西崎憲著を読む。
 
この作品は日常と非日常が混然一体となっている。
あり得る、あり得ない。ある、ない。いる、いない。
そう、マジック・リアリズム
不可思議な世界がキラキラ、雲母(キララ)のように。
 
以下、何篇かの短いあらすじや感想を。
 
『行列(プロセッシング)』
ある日、男が先頭に立つ。すると、どこからともなく人が現れて行列ができる。
人ばかりか猿や小鳥なども並ぶ。「虎」や「古びた電車」まで。
でも長い行列はすべては見えない。
近所のスーパーマーケットでは、ソーシャルディスタンスで間隔を開けて行列する。
ほんとは、見えない人がその間にいるかもしれない。
 
『おまえ知ってるか、東京の紀伊國屋を大きい順に結ぶと北斗七星になるって』
「2022年、東京湾地震」が起きて地震津波で大きな被害を受けた東京。
生き残った「ぼく」とオカルトに詳しい友人。
「東京の紀伊國屋を大きい順に結ぶと北斗七星になる」という伝説を確かめに図書館を探検する。
映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の碇シンジ渚カヲルが頭に浮かんだ。
 
『箱』
転校生が来た。彼はいつも「風呂敷に包んだ大きな箱」を持っていた。
「わたし」は、彼の家へ行ったとき、気になっていた箱の中身を開けようとするが、開かなかった。
大人になって「グラフィックデザイナーの個展の打上げ」で再会する。
すぐにわかった。「立方体とも見える黒い大きな鞄」を手にしていたから。
たぶん箱が入っている。
箱はライナスの安心毛布のようなものか。違う。箱の中身は。

『未知の鳥類がやってくるまで』
出版社で校正をしている女性。送別会で校正刷りを失くす。
失われし校正刷りを求めてさまよう。神隠しならぬ紙隠し。
紛失の責任をとって退社することも考える。
さて、どこにある。見たことのない動物と出会う。
似た経験のある人は多いだろう。
 
『開閉式』
幼い頃から「わたし」には「扉」が見えた。
それは人間の手や「後頭部」などにあって、
「犬や猫や鳥」にもあった。
何のため。「開け閉めするのは誰」。
掌にファスナー、首にスイッチなど本物そっくりに
ボディペインティングする作品があったが。
異界への扉ってのはヤボつーかヘボ解釈かも。

短篇小説は、盆栽のようなものだと思う。
少ない文字量で長篇小説と遜色のない世界を構築する。
どんどん言葉は削られて最後には短篇が短歌になったりして。
そうなると作者は別名義・フラワーしげるに変身する。
 
シン・マジック・リアリズムのシンはシン・ゴジラのシンね。