自由を『われらに』

 

われら (光文社古典新訳文庫)

われら (光文社古典新訳文庫)

 

 チェーホフなど、なんだか光文社古典新訳文庫を読む率が高い今日この頃。

その一冊、『われら』ザミーチン著 松下隆志訳を読む。

訳者というと個人的にはソローキンのバッチグーな翻訳をあげる。
文庫の帯の惹句がかなりすごい。
気になる人は書店店頭で要確認。
 
舞台は「1000年後。地球は単一国に支配されている」
そこでは全国民は何もかもが国家からの管理下にある。
フーコーの提唱したパノプティコン社会を実現している。
 
セックスまでなんだか事前に検査され、スケジュール管理され、
「該当日」に申請、ピンクのク―ポンが配給され、
営むときにクーポンを渡すという。
優生学的なものが背後にあるのだと思うが、説明はない。
 
主人公は「数学者で、宇宙船『インテグラル』の建造技師」。
彼が書いた40の「記録」からなる。

そこには、仕事のこと、友人や気になる女性のことが記されている。
監視されている重苦しさからあえて逃れようとしてなのか、
時折予定外の行動をする。酔っているような、ラリっているような。
 
宇宙船『インテグラル』のテスト飛行で俯瞰する地球、単一国。
最終の記録40で単一国の「指導者恩人」と会う。
危険思想は除去、粛清される。
ああ確かに『1984年』のラスト部分と雰囲気が似ているかも。
 
国民総背番号制度などで一切の個人情報を見える化しようとしている。
政府はいかに国民に便利かをアピールするが、
はてさて、それは政府にとって便利なわけで…。
 
本作は確かに「ディストピアSF」の古典だが、
1920年代に刊行された作品とは思えないほど新しく、みずみずしい。
ま、新訳、訳の良さもあるとは思うが。
登場人物がすべて記号であらわしているので、即物的な印象を与え、
結果としてSF的純度を高めている。
あるいは抽象化、神話化ってことかな。

一周してナターリヤ・ソコローワやミハイル・ブルガーコフなど
このあたりのソ連のSF系の作家がナウ。埋もれている人はいないのだろうか。おせーて!!
関連したレビュー。
 
『旅に出る時ほほえみを』ナターリヤ・ソコローワ著 

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『犬の心臓・運命の卵』ミハイル・ブルガーコフ  

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