お化けと化学(ばけがく)

アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短篇集』ルゴーネス著 大西亮訳を読んだ。アルゼンチンの作家・詩人。作品は「ボルヘスコルタサル」などに影響を与えたそうな。
 
作品は幻想小説、奇想小説に括られるが、科学(化学、植物学、鉱物学、生物学、
物理学など)の理論やそれに基づいた装置が登場してくるのが特徴。
両者は真逆で相容れないように思うあなた、ならばSF小説はどうよ。
当時は最先端だった科学理論や実験装置がいまとなってはレトロで、
作品に深みを与えている。
何篇か紹介。
 
『イパリア』
「迷子になった」3歳の女児・イパリアを育てることになった「独身男性」。
美しい少女に成長したが、地下室にひきこもる。心を病み、亡くなる。
地下室の壁にうっすらと「イパリアの肖像」が浮かび上がる。
 
アラバスターの壺/女王の瞳』
当時、ヨーロッパの貴族はエジプトなど考古学に興味を抱いていた。
「女王の墳墓の発掘」で「二つの壺」を発見する。太古の壺なのに
立ち込める「芳香」。発見した貴族は「突然の病で死去」する。
その前後に、壺からの芳香と同じ香りをまとった謎のエジプト人の女性が現れる。
女性の正体は。壺の芳香の成分は。異国情緒漂う連作。
 
『黒い鏡』
科学理論の一例を引用。

「あなたは、猫が木炭の上を嬉々として転げまわる様子を観察したことが
ありますか」

 


それは

「体のなかに蓄えられた不快な剰余電気を放出するためなのです。―略―
木炭には、動物の体に蓄えられた流体を強力に吸い取る性質があります」

 

とんでも理論であろうがなかろうが、楽しい。
 
『オメガ波』
さあて「エーテル」がテーマの本篇。
エーテルとは。
同好の士、3人。集まれば、「神秘学からエネルギー」まで話に花が咲いた。
 

「波動とその伝播の関係がいったん崩れると、音のエーテルは物体のなかに広がるのではなく、物体を完全に、あるいは一定の深さにいたるまで貫通します」

 

この理論から装置を開発する。実験は失敗に終わる。しかし…。
理論が結末に見事に結びついている。
訳者解説で知った著者の人生もかなりドラマチック。
さらに子孫にまつわる話もなんか祟りのようで。事実は小説よりも~ってやつ。
 
フェティッシュな実験装置など、どことなく稲垣足穂の作品を思わせる。
そう思うのは、ぼくだけだろうか。