アイロニーとハサミは使いよう

 

アイロニーはなぜ伝わるのか? (光文社新書)

アイロニーはなぜ伝わるのか? (光文社新書)

  • 作者:木原善彦
  • 発売日: 2020/01/15
  • メディア: 新書
 

 他国のように迅速に新型コロナウィルス対策で国民全員にまとまった現金を支払うのではなくて、洗えるガーゼマスクを1世帯当たり2枚支給という。

仮に10万円支払うとしたら、マスク1枚5万円だ。何も言えね。
と、いつになくアイロニカルなのは
アイロニーはなぜ伝わるか?
木原善彦著を読んだからかも。
 
アイロニー」というと「皮肉」。正解!だと思う。
作者は「否!」と言う。

アイロニーは「皮肉」よりも幅広いカテゴリーの修辞的表現」

であると。作者は「アイロニー」を解剖してどう伝播していくかを考察する。

 
まず、第1章でアイロニーの分類をしている。
たとえば「よいお日和を」。
 
「最初は―略―敵意がないことを示す意味であり、二度目はおおよそ、「もう話すことはないから向こうへ行ってください」という意図です」

 

こんな感じ。
ふっと浮かんだのが「ぶぶ漬けでもどうどす」。
アイロニーのこだま理論」で引用されているジジェクのジョークが、木下古栗も真っ青でウケた。
 
次に、第2章でアイロニーの基本構造である「メンタル・スペースの構造」を紹介。
分類と構造は、読み込むまでにはなかなか手ごわくてうまくまとめられるかどうかおぼつかない。なので長い引用を。
 

「リサという女の子が青い目を持っていて、他方で、レンという男の子はリサの目が緑色をしていると思い込んでいると仮定しましょう。何の文脈もない場面で、「その青い目の女の子は緑色の目をしている」と誰かが言えば、それは明らかに矛盾した発言になってしまいますが、ここに「レンの心の中では」と言えば、矛盾は消えます。―略―青い目のリサと緑の目のリサが何らかの関係で結び付いていると考えるとすっきりします。結び付けているものをコネクターと言います」

 最後に第3章で実例として「文学作品におけるアイロニー」を紹介。

3章の分類に取りあげた例が多彩でここだけ読んでも面白い。
単なる「皮肉」だけではないことがよーくわかる。
分類と構造でページをめくる手が止まりがちならば、
ワープして第3章から読むことをおすすめする。