貴婦人か貴腐人か

 

毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)

毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)

 

 『毛皮を着たヴィーナス』L・ザッヘル・マゾッホ著 種村季弘訳を読んだ。

率直な感想は思った以上に面白かった。
オペラの原作を読んでいるような感覚。
古典というと「古くさい」と思われがちだが、
なかなかどうして一種の恋愛ドラマのパターンを踏襲している。
訳者のファンではあったが。

ぼくもマゾヒズムマゾッホの名前に由来していることは知っていたが、
読んだことはなかった。
 
主人公の青年は子どもの時、お仕置きでいきなり鞭で打たれる。
苦痛もあったが、歓喜で身もだえした。
毛皮フェチの青年は、毛皮をまとった美しい「貴婦人」に魂を奪われる。

うら若き未亡人と「奴隷契約」を結び、下僕となる。
貴婦人に蹴られたり、鞭でしばかれる。
傷みよりも喜びが電流のように流れる。
飴と鞭で青年は翻弄される。
飴は不要か。鞭と鞭でもOKかも。
で、そこにギリシャ人の美しい若者が現れる。
貴婦人は惚れてしまう。
三角関係にもならないこじれた関係。青年は嫉妬で身もだえする。
最後の場面で…。これ以上ネタバレできない。

これも、やはり恋愛ドラマのパターンで、様式美っちゃあ様式美。
 
引用。
 

「私の奴隷になりたいのでしょう?」
「愛に平等はありません」私はうやうやしい厳粛さをこめてそう答えた、
「支配するか征服されるか、二つに一つの選択を迫られれば、即座に美しい女の奴隷になる方が私には魅力的に思えます。といって、しみったれた泣き言で男をとりなそうとするのではなくて、平静に、さめた態度で、いや厳格ですらある態度で男を支配するすべを心得た女が、どこを探せば見つかるでしょう?」

 

 
このように、ところどころに名言が埋もれている。