千の顔を持つ男―パク・ミンギュ

 

短篇集ダブル サイドB (単行本)

短篇集ダブル サイドB (単行本)

 

 『短集ダブル サイドB』パク・ミンギュ著 斎藤真理子著を読む。

「B面でも恋をして」じゃ、ちとイージーかなと思って。
笑って、泣いて、泣いて、笑って。
 
『カステラ』や『ピンポン』では、子どもや少年の気持ちや行動が
書かれていて、きゅんとした。

この本では『サイドA』と同様に意外にも高齢者を主人公にしたものがよい。
 
『昼寝』

妻が先立ち、「家を処分して」老人ホーム暮しを始めた男性。
そこで初恋の女性と再会する。
彼女は痴呆症。時おり、昔の美しさを見せるが、でも痴呆症。
彼女の窮地を救うために、とんでもない一計を案じる。
これが今日日の老いらくの恋かも。
亡くなった父親がやはり一人になって最後は老人ホーム住まい。
明るくこぎれいでヘルパーさんも感じの良い人だった。
恋愛こそしなかったが、男性入居者と小競り合いがあったそうだ。
 
ビーチボーイズ
これはオフで海に行く話。
仲間、ダチ公とはホモソーシャル100パー。
ナンパしたりカラオケに行ったり。
 
アスピリン
これはオンで「アメリカに本社のある外資系広告会社」が舞台。
外資系ではないが広告代理店勤務の頃、
コンペを抱えて胃が痛くなったシーンを思い出す。
コンセプト、キャッチコピー、キービジュアル、
表現案を理論武装するための分厚い企画書。
アスピリンは広告マンのお守りか。
 
『アーチ』
非正規社員の悲しみ。韓国のみならず日本でも社会問題となっている。
「大学出た連中も仕事がないのに俺みたいな奴を誰が雇うんだ。
非正規はもう、うんざりなんだ」
ベテラン警察官の眼を通して描いている。
重たい内容をガチ・マジじゃなく、きちんと自分の世界に仕上げている。

韓国版の表紙がルチャリブレのマスクマンとなっている。
プロレス好きの作者らしい。
ミルマスカラス、千の顔を持つ男という意味だが、
華麗な空中戦など多彩な技で人気があった。
作者もまたミルマスカラスだといってしまおう。