蓮華(れんげ)

f:id:soneakira:20190729120017j:plain

 

今年もみどろが池に蓮の花が咲いた。私は子どもといっしょに生家のそばにあるみど
ろが池のまわりを散歩して、藤棚の下でひと休みすることにした。幼い頃見ていた風景
と変わらない景色。私には、一卵性双生児の姉がいた。七歳の誕生日をすぎたばかりの
夏のある日、ここで私と遊んでいて、姉はあやまってみどろが池で溺れて死んだ。

 

溺死ということになっているが、ほんとうは私が姉を池に突き落としたのだ。生まれ
ついて私には姉がめざわりでしょうがなかった。姿・形は瓜二つだが、年を経るにつれ、性格は異なってきた。姉は社交的で、私は引っ込み思案。喧嘩をしても悪戯しても、要領の悪い私ばかりが叱られていた。その様子をこっそりドアの影から覗いては、ほくそ笑む姉。徐々に姉への殺意が蓄積されていった。

 

蝉が狂ったように鳴いていた。私は周囲を確認した。池一面に咲いている薄桃色の蓮の
花を見ようとしている姉の後姿に体当たりした。蝉しぐれが、止まったように思えた。
あっけなく姉は池に転落した。しばらくしてから蓮の花の間に、赤いリボンのついたお
揃いの麦藁帽子だけが水面に浮いていた。泣き叫びながら私は、助けを求めに行った。

姉には申し訳ないとは思うが、姉の存在がなくなってから、まるで憑き物が取れたよ
うに私は明るくなった。男三人兄弟の末の女の子だったので、両親からの愛を独占して
大きくなった。やがて親戚のすすめる人と結婚して、この子が生まれた。女の子だ。

 

娘がよたよたと池に向かって走り出した。私は制止しようと後を追った。池の渕で子
どもを捕まえた。その瞬間、誰かに体当たりされた。子どもを助けようと放り投げ、私
はみどろが池に落ちた。沈んでいく私。それを目にして、ほくそ笑む娘。なぜ。…その
顔つきは、姉にそっくりだった。というよりも、姉そのものだった。

 

人気blogランキング