楽しいわが家

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この家に引っ越してからまもなくだ。始終誰かに見られている気がしてならない。夜
遅く、会社から帰って風呂に入っていると、浴室の戸越に黒い影が。「誰」と声をかけ
ても、返事はない。妻にたずねても「知らないわよ。気のせいじゃない」と一笑にふさ
れた。寝室で久方ぶりに一戦を交えようと、はりきっていたが、何やら天井からの視線
を感じる。なんだか気分も萎えてしまって、妻は、白眼視。

 

念願のマイホーム。みんな最初は喜んでいたが、特に妻が日増しに体調がおかしくな
っていった。はじめは、シックハウス症候群かと疑ってみたのだが、下の子がアトピー
なんで、わざわざ健康住宅が売りのハウジング会社に注文をしたのだから、そんなこと
はないはず。知り合いのつてで霊媒師を頼んでお祓いをしてもらうことにした。日曜日
にふくよかな中年女性がやってきた。

 

霊媒師というよりも生命保険のセールスレディのような雰囲気。お祓いのあと、霊視
をしてもらったら、奥の座敷に狐がついているそうだ。仰せの通り、油揚げとお神酒を
にわか仕立ての神棚にお供えしていた。しばらくの間、影はなりをひそめていたが、梅
雨明けも間近という真夜中に、黒い影が複数で現われた。こっそり後をつけた。座敷に
入り、影たちは横臥して、まもなく妻、上の娘、下の娘になった。影なので妻たちには
影ができないのだ。

 

この新興住宅地の一角は、かつては病院だったそうだ。戦争中、空襲に遭い、防空壕
に爆弾が直撃して、生き埋めになって亡くなった患者や看護士が何十人、何百人といた
そうだ。町内会の長老に聞いたら、お祓いをしてもらった日は空襲に遭った日だとか。
長老にも影はなかった。念のため、自分の影を探そうとしたら、影はなかった。

 

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