読み直す

短篇小説日和―英国異色傑作選 (ちくま文庫)

短篇小説日和―英国異色傑作選 (ちくま文庫)

 

煙草が切れたら愛煙家はイライラする。
酒が切れたら大酒飲みは、こっそり引き出しの奥に
茶色の紙袋に入れておいたウイスキーのポケット瓶を取り出す。
買った本も借りている本も読んでしまったら
本好きは再読本に手を出す。

ぼくも乱雑な本棚の一角に再読本コーナーがある。
別にコーナーといっても何もなく、
ただ乱雑に入れてあるだけど。
ジャンルもバラバラ。

『短篇小説日和 英国異色傑作選』西崎憲編訳は、その一冊。
読むたびに残る作品が違う。
たぶん、こちらの心境の変化が影響していると思うのだが。


やはり
『後に残してきた少女』ミュリエル・スパーク著 西崎憲訳が好み。
ほんと、すぐ読めるんだけど、
細長いバックヤードが延々と続く英国住宅のように深い。
最初オチにやられたが、次に読むと
オチに至るまでの伏線がよーできている。
てへぺろ感がたまらない。

『決して』H.E.ベイツ著 佐藤弓生訳。
「待ってろ今から本気出す」(byライムスター)と思うものの、
本気が出せないヤツはあまた、いる。
家出を決行しようとしてそれだけで気が済むというかわいらしい話。



『殺人大将』チャールズ・ディケンズ著 西崎憲訳。
ブラックユーモアというか残酷なほら話。
ティム・バートン監督なら『殺人大将』は、増量したジョニー・デップで。

編訳者の『英国短篇小説小史』で、
それまでの小説をいわば脱構築したチェ―ホフの果たした役割を述べている。

「チェ―ホフがなしたことはまず短編小説というものから非日常的な一切を取りのぞくことだった。チェ―ホフは超自然、驚異、珍しいもの、事件などの代わりに「日常」を置いた。しかし、その「日常」は自らがその地位を奪いとった「超自然」その他のものたちと同様に内部に不可解さを孕んだものでもあった」

 

非日常ではない、ふだんの日々の中に潜んでいる「不可解さ」。
不条理や理不尽さ。
これらは並大抵のゴーストやお化けじゃかなわない。

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