破綻からはじまる

 


『近代日本一五〇年―科学技術総力戦体制の破綻』山本義隆著を読む。
西洋の科学史で新しい地平を見せてくれた著者が
日本の近代科学史をどうかっさばいてくれのか。興味津々。

福沢諭吉以下当時西欧に留学した人たちは
最先端の科学技術を取り入れた西欧文明にカルチャーショックを受ける。
で、追いつけ、追い越せと
官が主体となって民とともに殖産興業、富国強兵の旗を振りかざす。
新しもの好きの日本人には
科学技術はその象徴で過剰なまでの期待をした。

面白いなと思ったのは、後進国だった日本は最新の機械を導入できたこと。
欧州では段階を経て機械を進化・改良させてきた。
その時間をショートカットして使用する。
そして豊富な労働力を低賃金、過酷な長時間労働させることで
品質は同等でも価格の安い製品を輸出することができた。
世界の工場と言われるのがかつては中国だったが、
現在は人件費のより安価なベトナムなど東南アジアにシフトしている図式。

帝国大学の理系学部はそれこそ大日本帝国のために役立つ科学者の養成機関だった。
大学は学問を学ぶ場であるという考え方が根強くある。
実学、社会にでて即戦力となる人材を育てる場にカジを切ろうとしているが、
そも大学は実学、とりわけ理系は、そうだった。

 

「日清・日露の勝利で満州の権益を手にし、さらに朝鮮を植民地として獲得し、日本が帝国主義国家となったこの時点で、日本は同時に産業革命を完了した」

「京都帝大の誕生は、日清戦争での賠償金によるものであり、九州帝大と
東北帝大は、古河鉱業の寄付によって生まれた。古河市兵衛は、足尾鉱毒問題での世間の非難を緩和するために寄付をしたと伝えられる」

 

 

脱亜入欧が半世紀も経たないうちに駆逐米英に変わる。

第二次世界大戦後、日本が早く復興できたのは
官僚制と象徴としての天皇制だとかいうのを読んだことがある。
財閥解体、戦犯の公職追放などがあっても
国を動かす官僚制はGHQがその利用価値を認めていたのだろう。

「「戦時下で形成された金融と財政システムに依拠した官僚機構が現在も
日本経済をコントロールするのと同じ意味で、日本の科学のこんにちの展開の基礎は戦争によって培われたものである」と結論づけることができる」

 


あの頃はよかったといわれる高度経済成長時代も手厳しくこう述べている。

 

「戦後の高度経済成長もまた、漁民や農民や地方都市の市民の犠牲のうえに遂行されたのである。生産第一・成長第一とする明治150年の日本の歩みは、つねに弱者の生活と生命の軽視をともなって進められてきたと言わざるをえない。その挙句に、日本は福島の破局を生むことになる」

 

 

水俣病などの公害、三里塚闘争などか。沖縄の基地問題は福一同様問題をひきずったままだし。

原発とそれまでの技術の本質的な違いは、原発はひとたび事故が起こると「暴走」する、すなわち人間のコントロールが利かなくなる、という可能性があることである」

 

 

決してアンダーコントロールではない。
科学技術を否定することはないけれど、光と影、両面を見なければならない。
経済成長も望めないいま、これから。
そう思いたくない官民のトップが考えを変えるのはいつだろう。


著者の経歴に予備校講師、科学史家の次に元東大全共闘代表が書いてある。
いまだに個人で大きな権力と戦っているのだろうか。

著者の本の拙レビュー。

 

『世界の見方の転換』
http://d.hatena.ne.jp/soneakira/20140615

 

『一六世紀文化革命1』
http://d.hatena.ne.jp/soneakira/20070612

 

『一六世紀文化革命2』
http://d.hatena.ne.jp/soneakira/20070607

 

『磁力と重力の発見 1 古代・中世』
https://honto.jp/netstore/pd-review_0602325418.html


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ソネアキラ名義で。



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