媚びない、群れない

原節子の真実

原節子の真実

 


 「冬と夏の間に春をおきました~」(「僕の贈りもの」by オフコース)と
オフコースは歌っていたが、春はいずこへ。

スタア誕生金井美恵子著を読んだからではないが、
原節子の真実』石井妙子著を読む。
伝説と化した女優の生涯。

新しい映画には新しい映像スタイルや脚本が必要だが、
新しい俳優も必要だ。
ぼくは小津映画の何本かぐらいでしか
原節子を見ていないが、
その洋風な容貌、大柄なふくよかさ、上品な話し方は
それまでの日本の女優にはいなかった新しさを感じた。
ニュータイプ

横浜の裕福な家庭に生まれた。
本が好きで孤独を愛した優等生の引っ込み思案な少女。
小さい頃は姉の方がきれいだったとか。
彼女が女学校へ進学するあたりで
家業が傾きだす。

義兄が映画監督だったり
映画界と近しいこともあって、
家を助けるため、学校を中退。
仕事として女優を選択する。

原節子の魅力をまっさきに認めたのは
山中貞夫だった。
この話は素敵だ。
山中の親友が小津安二郎
山中は戦地で病気で亡くなる。
小津も出征する。
しかし黒澤明は兵隊にとられなかった。
これが原因かは知らないが、小津は黒澤の映画を認めなかった。
戦後、小津と黒澤で原節子の取り合いになる。

媚びない、群れない。
個人主義者のさきがけみたいなもので
誤解も多かったと思う。
恋愛も書かれている。
忍ぶ恋。映画みたいだ。
結局、実らなかったが。

石坂洋次郎は小説『青い山脈』の女性教師を
原節子をイメージして書いたという。
当て書きだったんだ。

突然、引退して鎌倉での長い隠遁生活に入る。
その理由を作者は
戦時中、原が戦意高揚のプロパガンダ映画に出演した反省かと
控えめに述べている。

日独合作映画で渡欧するシーンは圧巻。
ナチス政権下の重苦しいドイツ。
一転まだ自由さにあふれていたフランス。

茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」という詩と
重なる。

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