ノット・サティスファイド

大杉栄伝: 永遠のアナキズム

大杉栄伝: 永遠のアナキズム


今回のエントリーのタイトルは、
アナーキーの『ノット・サティスファイド』か
遠藤賢司の『満足できるかな』、どっちにしようと迷った。

大杉栄伝 永遠のアナキズム』栗原康著を読む。
順不同で著者の本を呼んでいるのだが、
この本は初期に書かれたもので
いまのような文体が確立される前だし、
博士論文として書かれたもののようだし。
ゆえに作者の論考に対して引用個所が多くて、
それはそれで参考になる。

大杉栄職業軍人の家に生まれたのは意外だった。
反面教師になったのか。
性的に早熟だったらしい。なるほど。
出来は良く、とりわけ語学はできたらしい。
思想犯で幽閉中にエスペラント語やフランス語を習得したとは。

当時最新の思想だったベルクソンと進化論に
惹かれたらしい。クロポトキンの著作を訳し、
「アリの相互扶助」こそが、何やら大杉の目指す社会、世の中だったようだ。
ほら、働かないアリがいてこそ、アリの社会は成立しているって
聴いたことあるよね、それかと。
風呂敷広げると社会的強者と弱者の共存。
みんなの好きなダイバーシティのことじゃね。

米騒動が当時の日本人の人口の
「6人に1人が暴動に加わっていた」
とは、驚き。
南米あたりで暴動が起き、店舗が襲われ略奪に合うシーンを
ニュース映像で見ると、日本は平和なよい国だと思いがちだが、
100年ほど前は同じようなわけだった。

大杉はアナーキストゆえ
働くことをしなかった。
あ、語学教師はしたが。
原稿料か、そのバンス(前借)か。
あるいは無心に行く。
人たらし的ところが、たぶんにあって
実業家や右翼の大物でも
大杉の思想には賛同しなくても
人間性に興味を抱き、金をくれた。
もらった金は、たまったツケや貧しい仲間にやるなどして
すぐつかってしまう。
語学に堪能なのか、恥に鈍感なのか、
中国やフランスに行っても
ものおじしない。そこは、痛快。

お上のいいなりにならない。
ストライキサボタージュを呼びかける。
既成のものは、くそくらえだ。
自由恋愛を実行して嫉妬から刺されても、だ。
ミカン箱に入っている一個の腐ったミカンが
やがて周囲のミカンを腐らせる。
とでも、思ったのだろう。

武道の一つである「棒術」の達人でもあったようだが、
多勢に無勢。
なんとも凄惨な最期を迎える。
んで、この国は戦争することになっちまう。

無政府主義。小さな政府どころか政府は不要だと。
ルソーの「自然に還れ」どころか
「野獣に還れ」が大杉だと作者は述べている。
為政者というよりも偽政者。
愉快なおじさんではないか。
ただし身内にいたんじゃ、やりきれんかもね。

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