マネキンおばさん


ある日、風邪を引いて市の総合病院に行ったとき、
にぎやかなおばさんがいた。
聞く気はないのだが、
力なく重たい『家庭画報』を開いていると、
大声が否応なしに私の耳に響いてくる。
どうやら学校給食をつくっている人らしい。
仕事で給食をつくっているから、
家では料理はしないと言い切る。
それでガハハと大笑いする。
風邪らしい。そうは見えないが。
知り合いのおばさんにあいさつして
外へ出る。
煙草を吸いに出たようだ。

ある日、スーパーマーケットへ行った。
マネキンおばさんがいた。
マネキンお姉さんは大抵恥ずかしそうに
商品の案内をするが、
マネキンおばさんは堂々としている。
その日のマネキンおばさんは強力だった。
店中によく通るがらがら声。
しかもアドリブで客いじりをする。
「帽子の似合うお兄さん、どうソーセージは、食べてみて」
「サングラスが決まってるお姉さん、これからデートなの」
「病み上がりのお父さん、ソーセージで滋養つけて、
過労死に負けちゃダメ」
とっさに隠れた私。大回りでヨーグルトを買う。
ソーセージを勢いで買わされた女性は
それを違う売場に置いていく。

マネキンおばさんは何者なのだろう。
売れないピン芸人のアルバイト。
ピン芸人になる前は漫才をやっていて
ドサまわりをしていた。
学校給食をつくるのにあきて
マネキンおばさんになった。
地球を探りにきた異星人のカモフラージュ。

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