フライング・メリクリ

デコ屋敷

子どもの時から、目立ちたがり屋だった男。
トレードマークは、リーゼント。
勉強はさっぱりだったが、商才には長けていた。
商業高校を卒業後、親戚が埼玉県で経営しているホームセンターで修行。
家業の金物屋を今風のホームセンタにリニューアルして、繁盛店となった。
今や地元の若き名士。
昔ふられた町いちばんの美女の妹を見初めた。
妹もかなりの美女で、彼女なりのソロバンをはじいて男を選んだ。
押しの一手で華燭の典を挙げた。

子どもも次々と生まれて、
実家の敷地内に戸建を建てた。
凝りに凝ったアメリカ西海岸風の住まい。
自慢のヤシの木は、豪雪であっけなく枯死。

クリスマス前が見ものだった。
一面にド派手な電飾を施したデコ・ハウス。
もちろん店の宣伝も兼ねていた。
今日日のような寒々しいLEDではない。
まばゆい光、暖かみのある色調、きらびやかな仕掛け。
不眠状態になった妻子は、その時期は男の実家に避難した。
商売が順調だったから、莫大な電気料金も気にならなかった。

地元のテレビ局が取材にも来た。
見物客のクルマで道は渋滞。
しまいには移動販売車も出るほど。

支店をといっても本店よりも大きな旗艦店を国道沿いに出そうかと
その矢先に、大手のショッピングセンターが工業団地の跡地に
進出することが決まった。

地元の商店街は団結で乗り切ろうとしたが、
竹やりでB29に向かっていくようなもので
数年後、目抜き通りは間もなくシャッター通りと化した。

男の店も対抗策が打てないままジリ貧となった。
人生の坂を転げ落ちるとは、このことか。

先読みの鋭さと美貌だけで生きてきた妻は、さっさと男に
見切りをつけて子どもたちと出て行った。
虎の子の貯金は、店の再生にぜがひでも必要だったが、
妻への慰謝料と養育費に消えた。

寂しさと未練で今でいうストーカー行為をしたが、
妻の父、義父は元警察署長。
自分で手は下さないで、そのスジの者に
暴力という有効な最後通牒を突きつけられた。

店の経営権を二束三文で知り合いに譲った男は
家にひきこもるようになった。
酒浸りの毎日。
若い時のリーゼントが嘘のように薄毛、白髪になった。
皺が増え、充血した目はうつろ。
いろんな支払いも滞りがちとなった。
電気が止められる前日、男は物置から埃まみれの電球などを
取り出して家の壁面に取り付けた。
ラジオからはクリスマス・ソングが流れていた。
 ザ・ロネッツの「フロスティ・ザ・スノウマン」。
男はフィル・スペクターのクリスマスアルバムをカセットテープにとって
クルマで聴いた。

ライトオン!久しぶりのクリスマス・デコ・ハウス。
男は最後に飲むつもりでとっておいたシャンパンを開けた。
グラスに立つ細やかな美しい気泡。バブルか。

翌日、電気を止めに来た電力会社の雇われ職員が
死体となった男の第一発見者となった。
いみじくも商業学校の同級生だった。

その家はそのまま放置され、荒れ放題。
事情が事情だけに買い手がつかない。

いつしか、幽霊屋敷と呼ばれるようになった。

住んでいる者はいないはずなのに、
クリスマスが近づくと家から派手な光が見えるとの噂が。
家があたかも光を放っているというように見えるという。
窓からはリーゼント頭の男の影が。

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