ヤマモリくんのこと


ヤマモリくんのあだ名は
土偶
教科書の写真で出ていた土偶が
どことなく似ているから
そうなった

ヤマモリくんは
小児ぜんそく
入退院を繰り返していた

町はずれにある大きな病院
戦争中は陸軍病院だったそうで
じいさんは、今も陸軍病院と呼んでいる

昔の名残をとどめる旧病棟と
新病棟が並んでいる
旧病棟には、成仏しない霊が出ると
噂になったりもする

ヤマモリくんのいる小児病棟は
新病棟

行く当てがないと
ヤマモリくんの見舞いに行った

バス代がもったいないから
自転車で行く

見舞いと言うのは口実で
漫画を読むのが目的

ヤマモリくんのベッドのまわりは
漫画だらけ

「おう」とか言って病室に入る
「おう」と土偶顔で答える

話はほとんどしないで
友だちと漫画を夢中になって読む

読み終えると
「じゃあ、またな」
「おう」と土偶顔がほほ笑む

 

ヤマモリくんは
どこかしら鷹揚というか
大人びたところがあった
「お菓子、食べたまえ」とか


東京で生まれ育ったが、
父親が病気で亡くなって
母親の実家に戻ってきたそうだ

 

クラス替えがあって
ヤマモリくんとは違いクラスになって
いつしか疎遠になった

病院のそばをたまたま通ると
ヤマモリくんのことを思い出した

塾へ向かう途中だから
夕方か

夕刊を配っている子どもがいた
ヤマモリくんだった
大丈夫なのだろうか

暗闇が町を支配していく
コウモリが静かに羽ばたいている

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