一線を越える

井田真木子 著作撰集

井田真木子 著作撰集

井田真木子 著作撰集』井田真木子著を読んだ。
名前は知っていたが、読むのははじめて。
「プロレス少女伝説」 「同性愛者たち」
「かくしてバンドは鳴りやまず」などから短文・詩篇まで収録。

インタビュアーとインタビュイーの関係。
取材する側と取材される側。
作者は、あえてその一線を越えて、聞きだす。
禁じ手だと思われているのに。
懐に飛び込んで取材するだの、
相手を怒らせる取材ができたらプロだのと
言われるが、いやあ、これはすごい。
恐山のイタコのように
インタビュイーが憑依したかの如く
言葉を綴る。
取材は、たぶん、熱く、ねちっこく。
しかし、書かれたものは、知的でクール。
日本のニュー・ジャーナリズムは、
ここに結実していたのかと、
没後に知る。

「プロレス少女伝説」
神取しのぶの「心が折れる」の名言は、ここからだったのか。
女子プロレスの歴史から女子プロレスラーになるまでの軌跡、
葛藤など改めてその当時を思い浮かべた。
優れた一冊だと素直に思う。

 「同性愛者たち」
LGBTを取り上げ、徹底的に行動を共にする。
書かなければ伝わらないが、書いたことで取材される側は、
世間から白眼視されたりする。そのせめぎ合い…。

「かくしてバンドは鳴りやまず」
ニュー・ジャーナリズムの草分けといわれる
『冷血』を上梓したトルーマン・カポーティ
とランディ・シルツ。
後者は知らなかった。ゲイとエイズ
大統領の陰謀』のカール・バーンスタイン&ボブ・ウッドワード
章ごとのつなぎと文体のスピード感が魅了的だ。
これはノンフィクション作家としての著者の信条を
書いたものだろう。
なぜかピーターキャット店主時代の村上春樹が出て来る。

大宅文庫へ資料を収集に行ったことが書いてある。
インターネットが普及する前は、
著名人の資料が、てっとり早く集められるのは、
そこしかなかった。
ぼくも資料を集めに八幡山にある大宅文庫へ通った。

絶版になっていた井田の著作を復刊するために一人出版社を
立ち上げた版元にも感謝したい。

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