新しい天使

「『新しい天使』と題されているクレーの絵がある。
それには一人の天使が描かれており、天使は、彼が凝視している何ものかから、今にも遠ざかろうとしているように見える。彼の眼は大きく見開かれていて、口は開き、翼は拡げられている。歴史の天使はこのような様子であるに違いない。
彼は顔を過去に向けている。僕らであれば事件の連鎖を眺めるところに、
かれはただ破局(カタストローフ)のみを見る。その破局は、休みなく瓦礫の上に瓦礫を積み重ねて、それを足元に投げ出して行く。
たぶん彼はそこに留まって、死者たちを目覚めさせ、破壊されたものを寄せ集め、組み立てたいのだろうが、しかし楽園から吹いてくる強風が彼の翼にはらまれるばかりか、その風の勢いが激しいので、彼はもう翼を閉じることができない。
強風は天使を、彼が背中を向けている未来の方へと、否応なしに運んで行く。その一方で彼の眼前の瓦礫の山は、天に届くばかりに高くなる。
僕らが進歩と呼ぶものは、この強風なのだ」
ヴァルター・ベンヤミン『歴史哲学テーゼ』)

1940年に書かれた断片もしくは警句だが、
当時のファシズム化に向かう重たい空気、時代の趨勢が
2015年のいまとどことなく似ている気がする。

 

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