ひみつの王国

ひみつの王国: 評伝 石井桃子

ひみつの王国: 評伝 石井桃子

『ひみつの王国 評伝石井桃子』尾崎真理子著を読む。

うさこちゃんピーターラビットなどなど、
石井桃子が訳した絵本を手にしたことのない人は
たぶんいないだろう。
編集者、翻訳家、小説家として日本の特に児童文学に貢献した人。

作者の自伝とも言うべき大著『幻の朱い実』を随分前に読んだ。
戦前の自立した女性の素敵な軌跡、
インテリ層の束の間の自由な空気などが
味わえたが、何やら釈然としない読後感も残った。

石井への奇跡とも思えるロングインタビューをもとに、
改めて石井の一生を探る。
とにかく1世紀近く現役だったことは、素晴らしく、
実に分厚い生涯だ。
ゆえに、本作も分厚い。

菊池寛からはじまって、当時の出版業界をうかがうことができる。
NHK朝の連ドラ『花子とアン』ではないが、
やはり、女性の地位向上と児童文学の発展に粉骨する。
山本有三など尊敬はするが、作品から感じられる
男目線からの教条主義的なにおいや文章は
石井の考える文学、児童文学とは異なっていたようだ。
戦後、まもなく東北で牧場を共同経営して
印税を注ぎ込んだり、
戦後中高年での留学など、フットワークも軽い。
自宅の一部を地域の子どもたちのために、
「かつら文庫」として解放した。
外柔内剛、見た目の印象とは違って辛口の人だった。

ガーリッシュ文藝と括れるのか。
女子高育ちというのか、吉屋信子でいうエス、
本来は男性向けのワードではあるが、ホモソーシャル
「男嫌い」だったか、どうかはわからない。
独身主義者というわけでもないようだし。
ただ結婚する理由、必要がなかったのだろう。
余りにも日々多忙で。

太宰治とのプチエピソードも意外っちゃ意外。

装画が、ヘンリー・ダーガーというのも
どんぴしゃ。

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