世界の見方の転換



『世界の見方の転換 世界の一元化と天文学の改革 』山本義隆著を読む。
『磁力と重力の発見』『一六世紀文化革命』と続く三部作の最終作だとか。


『世界の見方の転換3』のあとがきを読むと、三部作の狙いや位置付けがよくわかる。
狙いはわかるし、表層的なところや天文学がブレイクスルーの発端となったことは
わかる。細部の理解は、理系の人にまかせてとにかく読み進もう。
スピードが鈍るとこの手の本は大概中途で頓挫してしまうから。

あとがきから引用。

「大学教育を受けてはいるものの、道具を用いた精密な観測と込み入った計算を主要な手段として天体観測や地図製作に携わり、自身も手仕事もフィールド作業に従事し、職人たちと協力して観測機器の設計や製作に手をだし、さらには印刷出版にも乗り出す数学的実務家が登場し、天文学と地理学の変革、ひいては、古代以来の宇宙像と地球像に転換を追ってゆく過程を明らかにしました。中部ヨーロッパの人文主義宗教改革を背景として、脱アカデミズム化した知識人により狙われたその過程は、職人や商人たちの十六世紀文化大革命を知識人の側から補完するものと言えます」


アリストテレスの哲学を敷衍してキリスト教思想と統合したスコラ哲学。
トマス・アクィナスが有名だが、キリスト教の教義や教会が圧倒していた中世のヨーロッパ。そのパラダイムシフトが起こるさまを丹念に書いている。

「このガリレオたちの実験思想から、やがて科学技術という思想が生まれてゆきます。それは、それまで別々に、ほとんど没交渉に営まれてきた科学と技術、つまり、一方では技術的応用とはまったく無関係に大学で論じられてきた論証的な自然哲学と、他方では、理論的根拠の不明なままに職人の世界で経験主義的に形成されてきた技術を、科学的に裏づけられた技術、技術的応用のための科学という形で統合されるべきものと考えるものです」

産学連携の走りみたいなものか。
職人の経験値など暗黙知を科学で掬い上げて
立証そして明示化、見える化していく。
オープンソースしてシェア、さらにヴァージョンアップしていく。

予備校教師兼在野の研究者として
原発問題にも警鐘を鳴らしてきた作者。
著者の年賀状からの一部引用。



「明治の民主主義の不十分性は、昭和20年の敗戦で曲がりなりにも反省を迫られましたが、戦争中の総動員体制でさらに強化された国策科学技術の推進体制は、「殖産興業・富国強兵」が「経済成長・国際競争」のスローガンにすりかえられていっただけで、反省らしい反省もなく、戦後に受け継がれたようです」

 


高木仁三郎の著作の読後感と似ている。

ワールドカップ。日本対コートダジュール
苦労して取った1点どまりとわずかな時間に同じ攻撃で立て続けに取られた2点。
いつか見た光景。いつもながらの苦々しさ。

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